比較③─ウッドロウ・ウィルソン大統領
米大統領史を振り返ると、20世紀において大統領の権力を拡大させ、その権限を振りかざした人物として民主党のフランクリン・D・ローズヴェルト第32代大統領(1933~45年)がまず想起されるが、その原型はウッドロウ・ウィルソン第28代大統領(13~21年)にある。彼は中央銀行に相当する連邦準備制度や連邦取引委員会、合衆国内国歳入庁などを次々に創設し、行政府の役割を拡大したことで知られている。
そして、第一次世界大戦が勃発すると、孤立主義に固執する連邦議会を振り切って米国を参戦へと導いた。だが、その過程で連邦議会と衝突を繰り返し、いつしか「独裁者的大統領」と揶揄された。その後、大統領の権限拡大に反発した連邦議会によって彼が望んでいた国際連盟への米国の加盟は阻まれた。さらに、議会は次の大統領選挙で上院出身の候補を当選させ、崩れかけていた行政府と立法府との政治力学を回復させた。これがいわゆる、共和党のウォレン・ハーディング第29代大統領(21~23年)による「平常への復帰(Return to Normalcy)」であり、復元力が連邦議会によって発揮された事例だ。
目下トランプ氏は、共和党選出の連邦議員のみならず、司法府までをも影響下に置こうとして日増しに独裁者的な気配を漂わせている。彼の退陣後に、果たして米国は復元力を発揮して平常への復帰を果たせるのか。むろん、技術革新によって現在の時代はかつてとは大きく異なり、事実か否かに関係なくSNSなどによって情報は素早く拡散し、有権者も真実よりも信じたいことを受け入れる傾向が顕著である。そのため、以前のように米国の復元力が機能するという保証はない。
最終的に復元力の有無が明白になるのは、今年11月の中間選挙だ。公平で自由な選挙が実施されるのか、あるいは不正まみれの泥仕合となり、これを岐路に米国の民主主義は後退していくのかが判明しよう。
日本人が持つべきリアリズム
行うべき国防強靭化
米国がどこに向かうかにより、今後の世界秩序のあり方も大きく変わる。そのため、我々はその方向性を示す中間選挙に無関心ではいられない。加えて、日本は、米国の復元力が機能せず「平常への復帰」は容易にあらずとの前提に立ち、国益を担保する行動が肝要となる。なぜなら、米国の国力は相対的に脆弱化しているのみならず、歴史を振り返ればどの覇権もいずれは衰退する運命にあるからだ。戦後80年、日本を含む自由主義世界は正義と寛大さを基本姿勢とする米国の存在に甘んじてきたが、こうした時代は終焉期を迎えている。この厳しい現実を直視して、自国の命脈を繋げていくための政策の実行が焦眉の急である。
すなわち、目下世界は歴史的転換点にあり、新しい時代への適応力が求められている。日本史における国内的なパクス(力による平和)として機能したのは「幕府」だったが、戦後世界では紛れもなく「米国」である。そして、各幕府の衰退期では、国内情勢は不安定化して戦争が頻発した。その最たる例が、応仁の乱後の戦国時代だ。ならば、パクス・アメリカーナが揺らいでいる現在、世界はまさしく戦乱の世に向かっていると考えるのが妥当であろう。ならば研ぎ澄まされたリアリズムを持ち、自国の安全保障を自ら担える「国防強靭化」を実現させ、迫る危機に確実に備えることで、日本は今後の荒波を乗り越えられよう。
