2026年1月21日(水)

Wedge REPORT

2026年1月21日

 このように伝統企業が新しいことに取り組む理由について、細尾氏は「私にとって新しいことに取り組む理由は、伝統を未来にきちんとつなぐためです。西陣織は長い歴史の中で、常にその時代の文化や技術を取り込みながら進化してきました。伝統とは、過去をそのまま保存することではなく、創造性をもって挑戦し、変わり続けることだと考えています。その不断の更新こそが、結果として伝統を守ることになるのだと思います」と語る。

根底にある「More Than Textile」

 毎回ユニークな展示イベントを企画するHOSOOだが、今後も次々に新しい取り組みを行う、という意欲を見せる細尾氏は、「私は織物を単なる素材ではなく、音、空間、身体、時間と結びつくメディアだと捉えています。今後も、音楽、建築、テクノロジー、哲学など、さまざまな領域との交わりを構想しています。HOSOOのものづくりの根底にあるのは「More Than Textile」という考え方です。その視点が、まだ見たことのない織物の未来をひらいていくと信じています」という。

 HOSOOでは京都の丹後与謝野町に「KYOTO SILK HUB」という 「地域創生を統合した新拠点 × 文化 × テクノロジー × 養蚕」の設立を発表した。ここではソニーCSLが協力し、文化発信・研究、製糸モデルと先端技術による次世代型養蚕、人材育成などに取り組む長期プロジェクトを発信する。未来のシルク産業エコシステムの構築だけではなく、日本発の新産業モデルとして国際標準化を目指す。

 このプロジェクトについて細尾氏は「KYOTO SILKHUBにおけるSONY CSLとの協業は、伝統と文化の内部に、テクノロジーを静かに織り込んでいく試みです。過去と未来を切り分けるのではなく、過去の中にすでに含まれていた可能性を、現代の技術によって引き出していく。私たちが共有しているのは、『Future in the Past』という視点です」と語る。

KYOTO SILK HUB次世代型養蚕モデルファームイメージ

 新しい試みだけではない。HOSOOでは現在ヘンプという素材の普及にも力を入れている。ヘンプとは大麻草から作られる布で、世界最古の布とも言われる。麻(リネン)よりも丈夫でしなやか、抗菌性も強い、などの特徴がある。

 ヘンプに取り組む理由として細尾氏は「素材を選ぶことは、機能や流行の問題である以前に、どんな未来を支持するかという意思表示だと考えています。ヘンプは、効率や即時性が重視される中で姿を消しましたが、環境、土地、時間との関係において非常に誠実な素材です。現代の技術と感性を通してその可能性をひらき直し、これからの社会にふさわしい選択肢を増やしていきたいと考えています」と語る。

 ヘンプは低毒性のものが国内で栽培を許可される可能性もあり、洗うほどにしなやかになる自然素材として今後注目が集まるかもしれない。伝統産業を基軸に新しいことへの挑戦、そして布という原点に立ち返る姿勢を保つHOSOOは、世界への発信力も兼ね備えた京都の伝統産業の担い手として日々成長を続けている。

Facebookでフォロー Xでフォロー メルマガに登録
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。

新着記事

»もっと見る