2026年1月23日(金)

Wedge REPORT

2026年1月23日

稽古の効率最大化を目指した
「2面土俵」つくりの効用

 課題はそれだけではない。多くの相撲部屋では土俵が1つしかなく、番付の低い力士が早朝から稽古を始めても、その後は上位力士の稽古が終わるまで長い待機時間が続くため、取り組むべき練習内容が十分にこなせていない。解決策は、「2面土俵」にすることだ。そうすれば、短い時間で効率のいい稽古ができるため、その分起床時間も遅らせることができる。そして、食事とのタイムラグも短縮することができる。稽古時間も2倍になる。

 そして、詳細は後述するが、茨城県阿見町にある二所ノ関部屋には、2面土俵がつくられた。その結果として、稽古は9時に序ノ口から横綱まで全員がそろって、開始することができるようになった。親方も、新弟子に指導可能だ。そして全員一緒に稽古を終えるので、部屋の一体感醸成にも貢献する。睡眠と食事時間が大幅に改善した環境になる。このような科学的なアプローチが伝統の相撲界にも入ってきたのである。基礎練習に時間をかける大の里の躍進の背景にはこうした点が挙げられる。

 親方が現役引退直後、入学前の初対面の出来事も忘れられない。部屋のマネジメントが大きなテーマで、何を研究するのかについて話した際、欧州のサッカークラブの育成環境、システムについて話が及んだことだ。欧州のクラブは地域密着型でファンから選手が育ち、スター選手が出る構造について憧れを示していた。その後何度となく、欧州サッカーについては調査してもらった。

 また、筆者が設立に携わった鹿島アントラーズの初期の数面の練習場設計について、ジーコとともに練習を行う躍動感溢れるジュニアたちは、憧れのジーコと同じ空間にいると感じていたこと、また、都心から離れたことによる種々のメリットについて深く聞き入っていた。

 そんな親方にとっての地域密着が、自分の生まれ故郷の隣町、茨城県阿見町での部屋の建設であった。筆者も現地が竹藪だった頃に視察した。そこが今や立派な建物に変わって、横綱が誕生したのである。地域の方々は温かく部屋を見守り、時には差し入れもしてくださる。「地域に開かれた、地域からかわいがられるJリーグ的相撲部屋」ができた。

 また、阿見町の二所ノ関部屋で目を引くのが、企業名の掲示やのぼり旗である。大相撲は金銭面ではタニマチと呼ばれる人たち、そして後援会に支えられてきた。多くは個人である。しかし、二所ノ関部屋ではサッカークラブが企業に支えられているのと同じく、多くの企業に支えられる構造となった。

 このように、論文としてまとめた研究内容は、そのまま親方が新設した相撲部屋の設計へと反映された。


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