「治山」――。読んで字のごとく山を治めるということだが、多くの国民の意識が都市の内側に向いている現在では、まったく理解されないだろう。国土の3分の2が森林で、しかもそのほとんどが急傾斜の山岳地形に載っかっていることに気づけば、国民の安全がいかに森林の存在を頼りとしているかがわかるはずである。
最近では地球温暖化の影響か気象の変動が大きくなって、豪雨が頻繁に起きて、その都度土石流災害や洪水に見舞われ、その恐ろしさにはっとさせられる。しかし、巨大な都市のぬるま湯に浸っていると、そのような恐怖はすぐに癒されて、忘れ去られてしまう。
このような異常な災害時はともかく、むしろ日常の社会生活が安穏に過ごせるのが、森林のおかげであると言えるだろう。森林の擁する膨大な量の葉が、葉緑素が太陽光を吸収して、空中の二酸化炭素から炭素を固定して、膨大な樹体や樹根を生み出し、地表を廻らせる。
樹冠(樹木の枝葉が集まった部分)によって暑熱は緩和され、樹根によって土壌が斜面に保持される。落葉落枝、倒れた樹幹は菌類や微生物によって分解され、砕けた基岩と混和して豊かで孔隙(こうげき、土や岩石に含まれている隙間)に富んだ土壌を生成する。
降雨は土壌に浸み込み、急激な水の流出を緩和する。森林は荒々しい気象を緩和して、人びとに温和な生活を約束してくれるのだ。
「木を見て森を見ず」ということわざがある。部分ばかりみて全体を見ていないことの例えだ。しかし、森林を見るとどうしても樹木に目がいってしまう。林床に生える低木や草やシダに目がいけばよく見ている方だ。
このごろはシカ、イノシシ、そしてクマの動きも目立つ。樹上からは野鳥の声も聞こえる。さらに目をこらせば、小さな虫たちやキノコ類、土の中には土壌微生物がうじゃうじゃする。谷や沢には淡水魚や水生昆虫も泳いでいる。
森林を構成するのは樹木だけでなく、多様な動植物やそれらの生活を支える土壌、基岩、水系に及び、それらが相互に作用して支え合う環境が森林生態系である。森林に生きるすべての生物とそれらを支える基盤を含めて森林の構成要素なのである。
