ただし、ここで通信傍受の対象となるのは、日本の秘密を非合法に得ようとする外国政府勢力、もしくは外国政府の利益のために働く外国エージェントが対象であるため、大部分の日本人にとっては直接的な影響はないだろう。基本的に調査機関が日本人の通信を傍受することは想定されていないが、もし外国人エージェントとの接触を認められた場合は、裁判所の許可を得て実施することも検討しなければならないだろう。欧米諸国においても基本的には自国民の通信を傍受することには厳しい制限がかかっている。
日本は戦後長らく、米国の中央情報庁(CIA)や英国の秘密情報部(MI6)に相当する、海外での人的情報収集活動を専門とする対外インテリジェンス組織を持たなかった。ただし2010年代には海外で邦人がテロリストに誘拐、殺害される事件が相次ぎ、それに対応するため15年に国際テロ情報収集ユニット(CTU−J)が設置されている。CTU−Jはテロ分野に特化しているため、警察官僚を中心に対外情報機関に拡大するような構想もある。
新組織の整備にあたり
いかに人材を確保するか
第二次安倍晋三政権下で内閣情報官と国家安全保障局長を務めた北村滋氏は、「国際テロ情報収集ユニットは対外情報機関の先駆けといってよい組織ですが、任務がテロ関連の情報収集に限定されています。人員を拡充し、大量破壊兵器の不拡散や経済安全保障関連での情報収集も担わせることを検討しても良いでしょう」(21年9月12日付『読売新聞』)と主張している。
対外インテリジェンス組織は、海外にアセットを持つ外務省の協力が不可欠だ。CTU−Jも組織上は外務省に設置されているが、他方、情報機関は情報と政策の分離の原則から、政策官庁の中に置くことは好ましくなく、また政治指導者に直接情報を伝えられることが重要なので、同組織は内閣官房の指揮下にも置かれている。そのため日本が対外インテリジェンス組織を持つのであれば、CTU−Jの拡充が最も現実的な方法であるが、どのような組織としていくかは、さらに議論を詰めていく必要があるだろう。
現在、CTU−Jは100人規模の組織だが、対外情報機関となると相当な数の人員が必要となってくる。13年の自民党、当時の民主党、みんなの党による超党派議員の提言によれば、人員500人、予算200億円程度から始めるのが妥当との指摘もある。
ただ問題は、それほどの数の即戦力をどこから集めてくるかだ。カギを握るのは、公安調査庁の再編だ。
公安調査庁は法務省の外局であり、その所掌事務は破壊活動防止法(破防法)による規制対象の調査を行うことである。破防法自体は大戦直後に制定された法律で、当時は共産主義勢力の監視を想定していた。しかし冷戦終結後、共産主義勢力の活動は極めて低調となり、それに比例して破防法を根拠とした調査活動も低調となっている。
公安調査庁自らも近年の活動領域については、経済安全保障やサイバーテロを挙げており、そちらにより多くの人員を割いている。同庁の定員は1800人程度であるので、破防法に従事している調査官を法務省に残し、後の調査官は新たな対外インテリジェンス組織に合流させるというのも手であろう。
