虎視眈々と狙うハマス
そもそもハマス抜きの治安維持が現状可能かという難題も
一方、停戦交渉上ではハマスの統治撤退が求められているものの、ハマスを完全に排除した形でのガザ統治が可能かという難題も横たわる。ハマスが去年暮れに発表した、10月7日の攻撃から停戦に至るまでを総括した壮大な文書(参考記事『ハマスがクリスマスに発表した「我々の物語」アルアクサの洪水を正当化 殉教と犠牲を美化したプロパガンダ』)でも自らを、「ハマスは存在感においてより強く、より信頼される存在であり続けてきた」と位置付けた上で、強気にこう記している。
「ハマス支持が後退するという想定は、完全に負け確定の賭け」――これは、ハマス無くしてガザの統治ができるのか、という自信の表れにも見える。さらに、停戦後におけるパレスチナ内部の再編や、パレスチナ解放機構(PLO)の再建についても自ら言及するなど、公には戦闘終結後にガザ統治から退くと示唆しつつも、最終的には完全な武装解除を拒むことで影響力を維持する思惑も垣間見える。
そもそも、これほどまでに破壊されてしまったガザの再建と統治を一手に担うことはハマス自身にとっても無理難題であることは百も承知だろう。莫大な国際支援が必要となることも明白ななか、欧米諸国などからテロ組織指定されているハマスでは十分な援助を引き出すことも困難だ。そのため、表向きには統治から退いてテクノクラート(技術官僚)に引き継ぐ姿勢を見せつつ、その後のガザ統治にはハマス無くして成立しない状況となることも想定しているかにもみえる。
それが、ハマスのこのような強気な言葉に現れているのではないか。
「抵抗という選択を軸とした民族的団結の強化は、パレスチナ問題を清算しようとする、あらゆる占領側の計画を挫折させる」
「抵抗という選択を軸とした民族的団結」という言葉の奥底には、占領への抵抗を担う武装組織としての矜持が滲み出る。国際社会の承認を得るため譲歩する姿勢を見せながら、イスラエルと一定の協力をした形で和平を進めようとするパレスチナ自治政府(ファタハ)と一線を画した存在としての強固なハマス像を描くことで、占領の言いなりにならない戦後ガザ統治への関与を意識した発信とも受け取れる。
肝心のガザ市民の思いは 民意の複雑なジレンマ
最も重要なのは、ガザ市民が復興再建に向けてどのような統治を望むかという根本に立ち返ることだろう。だが、それも複雑な要素を孕んでいる。なぜなら、多くのガザ市民は2年以上に渡る戦争に疲れ果てており、これ以上戦争の引き金となるような過激な行為を起こすトップの存在を望んでいない。
一方で、深刻な問題はガザ内部における混乱した秩序だ。部族やギャングが戦時中の戦争の空白の間に幅を利かせ、停戦後に再び街頭に立ち始めたハマスと対立するなど混乱した事態だ。だが、ハマスのそうした強権的な支配なしでは一定の秩序が保たれないという切実な声もあり、過激な行為を起こす武装組織としてのハマスにはNOを突きつけるが、一方で街頭の治安を担う存在としては代替組織が見当たらない以上、その関与を求めざるを得ない――そうした複雑な心情がそこにはある。これが、停戦後に行われた世論調査において、低下傾向を続けていたハマスへの支持がわずかに増加したことに表れる民意の一端でもある。
ワシントンで描かれた巨額の復興支援が投入される再建計画の青写真が明らかになる一方で、ガザ現地の統治権力を巡る混迷は深まっている。国際社会がハマス抜きのガザ統治を急ぐなか、現地で着々と支配を固めるハマスの存在は、今後の和平プロセスにおける最大の不確定要素として燻り続けるだろう。新たな統治主体がガザ内部で治安維持能力を証明出来ていない現状では、統治の空白をいかに迅速に埋めるかが、トランプ和平案の成否を分ける最大の焦点となる。
