2026年2月26日(木)

深層報告 熊谷徹が読み解くヨーロッパ

2026年2月26日

「核抑止力について考えないことは最も危険」

 日本は世界で唯一、核攻撃を経験した国だ。筆者はこれまで広島の平和記念資料館を4回、長崎の原爆資料館を1回訪れた。核兵器の恐ろしさと非人道性を理解しており、絶対に使用してはならない兵器だと考えている。

 我々日本人の大多数にとって、核保有をめぐる議論はタブーである。国民の間では、安全保障や軍事問題についての知識が乏しく、関心も低い。

 だが欧州の政界・学界では、「米国に頼らない核抑止力について考えざるを得ない」と考える者が大勢を占めている。彼らの間では、「ロシアは、交渉によって侵略をやめる国ではない。侵略の矛先はウクライナで終わらない」という意見が有力だ。多くの軍や諜報機関の関係者たちは、「30年頃には、ロシアはバルト三国やポーランドなどのNATO加盟国を攻撃する能力を持つだろう」と見ている。

 それだけに欧州の学界でも、米国に頼らない独自の核抑止力について激しい議論が行われている。今年2月のMSCの直前に、MSC主催団体は、ドイツのヘルティー国際安全保障研究センター、スイスのザンクトガレン大学・政治学研究所とともに、欧州の核抑止力についての研究報告書「Mind the Deterrence Gap(抑止力のギャップに注意せよ)」を公表した。これらの団体は、欧州核研究グループ(ENSC)という組織を構成している。

 ENSCは、「英仏の核の傘を広げるオプション」、「引き続き米国の核の傘に依存するオプション」、「ドイツが独自に核武装するオプション」、「通常戦力だけを増強するオプション」など5つのオプションを検討した。その結果ENSCは、欧州諸国が英仏と協議して、両国の核の傘を強化し、その適用範囲を欧州全体に広げることが、政治的な実現性や費用の面から理想的であるという結論に達した。

 この報告書の中で、印象に残った言葉がある。「米国の核の傘に依存し続けるというオプション以外は、どの道を選んでもリスクが大きく、費用も増える。ただし核抑止力についての議論を避けるというオプションは、最も危険だ」。ENSCに属する学者たちは、「不愉快であっても、欧州は核抑止力についての議論を避けてはならない」と主張しているのだ。

 我々日本人は、「米国の核の傘に守られている。万一の時には、米国が助けてくれる」と漠然と思っている。

 これに対し、欧州諸国は「米国に100%依存することは危険だ」と考えている。欧州人たちは、トランプ政権の1期目と2期目における体験から、ロシアが欧州の国を襲った時に、米国が本当に欧州を守ってくれるかどうかについて、確信を持てなくなった。

 我々日本人は、欧州で行われている議論を、「日本には無縁の、対岸の火事」と片付けてよいものだろうか? 少なくとも、この問題から目をそらさずに議論を行い、国民的な合意を形成する必要があるのではないだろうか。

 

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