現時点では、メルツ首相はドイツ独自の核開発・核保有は考えていない。その理由は、ドイツ政府が1990年の東西ドイツ統一の際に旧連合国4カ国との間で調印した2プラス4条約の中で、核兵器を保有しないと明言したからだ。さらにドイツは核拡散防止条約にも調印している。フランスと英国は、今後核抑止力のインフラを更新、強化しなくてはならないので、ドイツなど他の欧州諸国に対して、費用面での支援などを求めていくものと思われる。
独仏間の確執とフランス大統領選の行方
ただしドイツとフランスの核兵器に関する協力については、いくつか問題点がある。一つは、独仏・スペイン共同の戦闘機開発計画をめぐる対立だ。
次世代戦闘機システム(FCAS)と呼ばれるプロジェクトは、17年にスタート。これらの3カ国は27年に試験飛行を行い、40年に運用を開始することを目指していたが、開発は大幅に遅れている。
メルツ首相は「AIの急速な進化により、有人戦闘機の時代は終わった。何のためにFCASを必要とするのか」と発言しており、このプロジェクトに批判的な態度をとっている。
この背景には、すでにドイツが米国に対して戦闘機を注文したという事実がある。ショルツ前政権は、22年のロシアのウクライナ侵攻直後に、米国からF35・A型戦闘機35機の購入を発表。ドイツ政府は同年12月に、米国側に代金として105億ドル(1兆5750億円・1ドル=150円で換算)を支払う契約に調印した。
ドイツ連邦軍が米国との核シェアリングで使用するトルナード型戦闘機は老朽化しているので、米軍の戦術核兵器を搭載できるF35・A型戦闘機を購入した。すでに米国に最新型戦闘機を発注したことも、ドイツがFCASに消極的な理由の一つだ。ドイツの論壇では、「マクロン大統領は、フランスの核の傘で他の国をカバーするための条件として、FCASの完遂を要求する可能性がある」という指摘がある。
マクロン大統領は2月末か3月初めにフランス南部のブレストで、欧州独自の核抑止力戦略について演説を行う予定だ。同氏はこの演説の中で、方向性をより明らかにするものと思われる。
もう一つの問題点は、27年4月のフランス大統領選挙の行方だ。現在二期目のマクロン大統領は、この選挙には立候補できない。同国で躍進中なのは、右翼ポピュリスト政党・国民連合(RN)だ。RNは、フランスの核の傘を他の欧州諸国まで拡大することに反対している。
フランスの世論調査機関IfopによるとRNの支持率は最も高く、35%。第二党の新国民戦線(NFP)の24%に11ポイントの差を付けている。RNのマリーヌ・ルペン国民議会院内総務は、欧州連合(EU)資金の不正流用をめぐって25年3月に有罪判決を受けており、来年の大統領選挙に立候補できるかどうかは微妙だ(現在係争中)。しかし万一ルペンが大統領選への出馬に成功して勝利を収めた場合、フランスの核の傘を他国にも広げるという構想は、頓挫するかもしれない。
