区別される関連性と因果関係
医学の研究、特に観察研究において、「関連性(association)がある」ことと「因果関係(causation)がある」ことは明確に区別される。たとえデータ上で「Aが増えるとBも増える」という強い相関が見られても、それはAがBを引き起こした(AがBの原因である)とは限らない。
これを混同すると、誤った健康アドバイスや治療オプションの選択につながる恐れがある。メディアなどでもこの区別を曖昧にしたままで報道されることが多く、誤ったメッセージが伝わってしまう。
理解しやすいように、具体的な例をみてみよう。
<例1>コーヒーの摂取と肺がんのリスク
かつて観察研究で、「コーヒーをよく飲む人は、飲まない人に比べて肺がんの発症率が高い」というデータが出たことがあった。観察研究とは、研究者が(薬を投与するなどの)介入を行わずに、疫学調査など自然な状態を観察する研究手法である。
この見かけ上の関連性から「コーヒーの摂取量増加によって、肺がんになるリスクが増加した」と考えてはいけない。実際は、コーヒーを好む人は、同時に喫煙習慣がある割合が高かったのだ。肺がんの真の原因は「タバコ」であり、コーヒー自体に発がん性があるわけではないことは別の研究で示されている。
このような、想定された原因(コーヒー)と結果(肺がん)の両方に関係して因果関係を見誤らせる第3の因子(タバコ)は、交絡因子(confounding factors)と呼ばれる。
<例2>人工甘味料と糖尿病のリスク
「結果」だと思っていたものが、実は「原因」だったということもある。
近年の多くの観察研究で、「ダイエット飲料(人工甘味料)を飲んでいる人ほど、糖尿病や肥満のリスクが高い」という報告があった。
これも、見かけ上の関連性から「人工甘味料の摂取量増加によって、糖尿病や肥満になるリスクが増加した」と即断しては行けない。実際は、もともと血糖値が高かったり、体重を気にしていたりする(糖尿病予備軍の)人が、健康のために砂糖を避けて「あえて人工甘味料を選んでいる」かもしれないのだ。
人工甘味料が糖尿病や肥満を引き起こしたのではなく、糖尿病リスクや肥満の心配が高いから人工甘味料を摂取していた、という因果の逆転(reverse causality)も考えなければいけない。
<例3>ビタミンサプリメントと寿命
特定の習慣を持つ人が、それ以外の面でも健康意識が高いが故に起こる偏り(バイアス)がある。
「各種ビタミンを含むサプリメントを毎日飲んでいる人は、心血管疾患が少なく長生きである」という観察研究も多数発表された。
この関連性から、「サプリメントを継続して摂取すると、死亡率が低下する」ように見えるが、サプリメントを毎日欠かさず飲む人には、運動習慣があり、食事に気を遣い、定期健診を受け、喫煙しない傾向が非常に強かったのだ。
