2026年4月9日(木)

戦災樹木を巡る旅

2026年4月9日

鼓動を感じ、一体化する作品

 こうして生み出された《感覚細胞―2016・イチョウ》では、イチョウの根本に「CORQ®︎ (コルク)」という鉄製のブロックが敷き詰められた。もともとイチョウの周囲はタイルで舗装されているが、なぜさらに鉄畳を敷いたのだろうか。

左:《感覚細胞-2016・イチョウ》(部分)、右:作品を体験する親子の様子。いずれも2016年 撮影:田窪大介

「あの大イチョウのある日常の風景。《感覚細胞―2016・イチョウ》は、その当たり前の日常と非日常の現実化を試みた表現です。生と死、死と再生の循環のなかで、人の体のなかや、自然の風景や、地表に、聴診器を当てて音を聴くように、戦災大イチョウの根本にCORQ®︎を敷き詰めました。来館者には、被災した大イチョウの鼓動を改めて感じてほしかったのです」(田窪さん)

 展覧会の会期中は、裏庭に入ることができ、田窪さんと日本製鉄が共同開発したCORQ®︎の上に乗って、イチョウを真下から眺めることができたそうだ。

 2カ月あまりの会期中、学芸員として来館者に、ギャラリートークなどで直接作品の魅力を伝えていた田村さんは、作家の手を離れた後も、作品が刻一刻と表情を変える様に驚いたという。

 「CORQ®︎ は鋳造された鉃でできており、雨や露にさらされると錆が出て赤みを帯びていきます。さらにお客様に踏みしめられることで、表面の褐色が日々変化していく様子は、私たちにとっても驚きの連続でした。有機的で不揃いな形のブロックを組み合わせて設置するため、上に乗ると重みでわずかに揺れ、ブロックどうしが触れ合ってカタカタと心地よい音を立てます。足裏に伝わる感触や微かな音を味わいながら、イチョウとともに風景芸術の一部になる体験を、多くの方に楽しんでいただけたと思います」(田村さん)

撮影:田窪大介

 田窪さんの風景芸術は、インスタレーション(Installation Art)という手法を用いている。インスタレーションは1970年代に登場した現代美術における表現手法・ジャンルの一つで、作家の意向に沿って空間を構成し、場空間全体を作品として体験させる芸術。空間全体が作品であるため、鑑賞者は一点一点の作品を「鑑賞」するというより、作品に全身を囲まれて空間全体を「体験」することになる。


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