2026年3月30日(月)

医療神話の終焉―メンタルクリニックの現場から

2026年3月30日

 欧米のエリート教育は、産業社会にとって必要な資質を、学校時代にしてすでに育てようとしていた。企業社会で求められることは、「クイズの王様」として称賛されることではない。仕事をすることである。

 しかも、その仕事は、クイズと違って正解がない。しばしば利害が衝突する。誰もやりたがらない。厳しい価格交渉、リコールへの対応、不採算事業の整理、リストラ、危機対応など、企業社会では潜り抜けなければならない修羅場が多々ある。

 誰がやっても失敗し、その結果、非難されることがわかっている仕事を、それでも誰かが引き受けなければならない。こうした仕事は、「点取り虫」としての資質よりも、むしろ、「覚悟」、「勇気」、「胆力」といった無形の資質を必要とする。

 真のエリートは、意思決定を担う。意思決定には、知識や技能だけでなく、公共責任が求められる。本邦の学校教育は権利や配慮を教えこそすれ、責任や公共性を教えない。

 学生は、もっぱら権利を享受する立場に身を置く。権利に責任が伴うという自明の理に向き合おうともしない。

 産業社会に参入すれば、真に必要なのは、「面白い仕事」でも「評価される仕事」でもない。むしろ、「誰かがやらなければならない仕事」である。リスクを取らず、責任を回避し、敵前逃亡するタイプの人間にこのような仕事が務まるはずがない。

職歴には複利効果がある

 社会に出て真に功を奏するのは、学歴ではなく、職業人としての履歴である。後者が前者と決定的に異なるのは、長期にわたる蓄積が「複利効果」をもたらすという点である。

 「持つ者はさらに与えられる」(社会学者ロバート・マートンの「マタイ効果」)という現象が、職歴においては顕著に認められる。昇格も、昇給も、すでにそれを成し遂げた人に対して、さらにまた与えられる。逆もまたしかりである。

 職業経験が学歴と根本的に異なるのは、それが技術と知識に加えて、人脈と信頼を生む点である。経験が次の機会を招き寄せる。

 困難なプロジェクトを成功させれば、その実績は信頼につながり、評判を生み、その評判を知った人がさらに困難なプロジェクトを依頼する。実績があればあるほど、新たなプロジェクトは持ち込まれ、機会を与えられるごとに経験値は自己増殖する。

 逆に、責任回避型の人間、敵前逃亡歴を持つ者には、困難な仕事は頼まなくなっていく。将来性のある仕事も頼まない。


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