第二は新薬開発のスピードアップ。新しい創薬標的を発見することは、深く長い基礎研究が必要だ。しかも成功するかも分からない。これに比べて、臨床治験で確認が取れている複数の薬効モジュールを組み合わせれば、新薬候補分子を短期間で開発できる。副作用さえチェックできれば、新薬開発成功の確率はかなり高いと考えられる。
激変する医薬品産業の中で
日本が目指すべき方向性
今や自動車産業を追い越して、世界最大の産業となった医薬品産業。
その創薬の組み立て産業化は、かつて家電や造船で世界を席巻したわが国のモノづくり企業の十八番ともいうべきではないか。しかも新薬は高付加価値だから人件費の制約もない。だから、わが国の製薬企業やベンチャー企業が活躍しそうなものだが、現在のところアンサンブル創薬では第一三共を例外として圧倒的に中国企業に覇権を握られている惨状だ。その要因は、第一に医薬品の受託製造企業の充実、第二に倫理的な壁が低く、治験が比較的簡単で、しかも大規模に実施できることが理由なのだ。わが国の国民皆保険制度(医薬品へのアクセスが世界一良く、治験参加のインセンティブがない)と生命倫理の高い壁こそが、わが国のアンサンブル創薬の頸木となっている。
では、わが国のバイオベンチャーや製薬企業はどうすべきなのか?
ここは我慢のしどころだ。商売だから武田薬品などのように中国からライセンスに積極的に動くのも仕方がない。だが、それだけでは〝商社〟に堕することになる。収益性の高い自社創薬を目指し、第二の第一三共や急成長するバイオベンチャーを生むためには、深い生命科学の基礎研究から新たな創薬標的を発見、他社が真似できない薬効モジュールの知財を確保、それを切り札にアンサンブル創薬に挑むことが不可欠だ。
まさに〝急がば回れ〟の戦略である。生命科学分野でのノーベル賞受賞者数で中国を圧倒する、わが国の医学・生命科学の深く多様な研究が、この戦略を助ける。中国の単なる組み立て新薬の後追いだけは避けなければならない。資本主義が機能しない中国の組み立て新薬創製モデルは、ほどなく過当競争に陥る可能性が高いためだ。実際、プミタミグと類似の方法で創られるシーズは既にレッドオーシャンになっている。中国と同じ競争に巻き込まれることは極めてリスクが高い。
「独創性」こそが、わが国の製薬企業やバイオベンチャーの生きる道だ。iPS細胞由来の再生医療新薬で、世界に先駆けて住友ファーマと大阪大学発のバイオベンチャー・クオリプスがそれぞれ条件付き製造販売承認の了承を得たことは、その良き証左といえるのだ。
