出てこない停戦への強い抗議
では、こうした数字を背景にして、アメリカ国内では「イラン攻撃即時停止」あるいは「トランプ辞任を要求」といった運動が盛り上がっているのかというと、必ずしもそうした雰囲気は強くはない。例えば、3月28日には全米で大規模な反トランプ政権のデモが行われた。「王はいらない」というスローガンは、今回のデモですっかり定着したように見えるし、5月1日のメーデーには、同じスローガンを掲げて全国でストライキが計画されているようだ。
気になる中間選挙だが、現時点では連邦下院は民主党が過半数獲得に接近しており、そうなれば弾劾裁判への起訴は可能となる。また連邦上院でも、テキサス州で民主党が若手のホープを候補に指名した一方で、共和党内は穏健派と右派の候補が泥仕合を繰り広げている。大統領自身は、仮に2027年初頭に新議会が招集されれば、もしかしたら共和党の穏健派も自分を見限って弾劾に動くかもしれない、そのような事態への警戒心を緩めていないようだ。
ということで動きはあるし、イラン攻撃による混乱で政権は苦しんでいるのは事実だ。けれども、例えば現政権に向かって、連邦議会が結束して停戦を求めるとか、例えば共和党の穏健派だけ、あるいは民主党だけでも一致して強い抗議をするという気配は見えない。
現時点において議会で論戦となっているのは、何かと問題の多い移民・税関捜査局(ICE)の予算を停止しようという民主党の動きである。ただ、ICE予算を止めようとすると、ICEの上位機関である国土保安省全体の予算が止まり、結果的に空港保安検査所の業務が回らなくなって旅行者が迷惑するといった事態が展開されており、政権への打撃を与えるには至っていない。
世論の側も、この空港の混乱問題に関しては背景にある政争の複雑さを理解していて、一種のあきらめムードがある。日常生活に直結しているガソリン価格高騰については、イラン開戦前の25%以上の上昇を見ているが、強い政権批判が噴出するということには、今のところは、なっていない。世論も、政局も、そのようなわけで、事態の割には比較的平静であり、そのために政権が強硬論に傾斜することへの歯止めが効いていない。
世論や議会にあるのは、一つの「様子見」という感覚かもしれない。大事なのは11月の中間選挙であり、そしてその前の初夏までに行われる共和党内の予備選である。
予備選で穏健派が勝てば、仮に勢力分野が共和党有利となっても年明けの弾劾論議に可能性が出てくる。一方で、予備選で強硬派が勝利すると11月の本選で中間層が離反して民主党が有利になる。こうした動きを想定して世論も、議会も今は静かに状況を見ているという様子見の雰囲気はたしかに濃厚だ。
「反対」が起きない3つの問題
さらに言えば、その奥には大きな問題が横たわっている。
1つは、トランプ氏に対抗する存在として、顔となるべき人物が見えないということだ。例えば共和党内で次期大統領選への人気投票を行うと、出てくるのは常にヴァンス副大統領とルビオ国務長官の名前ばかりである。
彼らには、トランプ政権が進めた「無理な政策」からの「出口戦略」が期待されているのは間違いないが、現在は政権中枢にいるために、「トランプ後」の政策を語る立場にはない。結果的に穏健派も含めた共和党支持者は、「その先」への議論を封じられている形だ。
一方の民主党の場合も、同じように顔は見えない。28年へ向けての大統領候補について待望論を含めた世論調査は数多くの州で実施されているが、結局のところ、ハリス前副大統領、ニューサム・カリフォルニア州知事、ブティジェッジ前運輸長官といった「いつもの顔ぶれ」が出てくるだけで、全くもって新鮮味に欠ける。
