2026年4月2日(木)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2026年4月2日

 2点目は、特に今回のイランとの戦争に関して、明確に反対の論陣を張る政治家が少ないということだ。イランとの長年の確執についていえば、79年のイラン革命直後に起きたテヘランの米大使館人質事件で苦しんだのは、民主党のカーター大統領である。一方で、共和党側にも長年にわたって対イランの強硬論はあった。イスラエルとの関係では、平和的なイスラエル左派との連携が弱くなった現在は、民主党の穏健派も共和党も基本的にはネタニヤフ政権への批判は控えている。

 そうした結果、イランとの戦争に真っ向から批判するのは、白人至上主義からユダヤ系への差別を口にする極右勢力であるか、またはイスラム世界との平和共存を訴える民主党の左派勢力しかいない。平均的なアメリカの有権者にとって、身近な存在の政治家には戦争をすぐに止めようという声は少ないのが現状である。

 3点目としては、国民生活の問題がある。バイデン政権当時の激しいインフレや、若者の将来の雇用に対する不安を受けて出発したのが、現在の第二次トランプ政権である。そのトランプ政権が、今回のイラン攻撃によってガソリン価格の暴騰を招き、再び国民の生活にとっては脅威となっている。だが、トランプ政権に批判的な共和党の穏健派からも、そして民主党の穏健派からも、インフレの抑制や、若者の将来不安に応える政策はほとんど聞こえてこない。

 そうすると、強いアメリカを表現しようと攻撃に参加したものの、思わぬ原油高に困惑してイスラエルを抑制にかかったり、イランとの強引な取引を試みたりする現政権の行動について、それに「取って代わるもの」は見えないことになる。

 若者の将来不安については、第二次トランプ政権発足の時期が、民間企業におけるAI利用のブームに重なり、各企業が加速度的に生産性を上げる中で、新規雇用が一気に冷え込んだ。トランプ氏に関して即効性はないものの「関税による製造業回帰」であるとか「海外からの投資の呼び込み」といった政策メッセージがあり、AIによる就職氷河期問題を「先取り」した格好になっている。その一方で、民主党からも共和党の穏健派からも、こうした若者の将来不安に応えたメッセージは聞こえて来ない。

困った状況だが、様子見

 一言で言えば、予想外に激しい政策を繰り出して、イランとの戦争まで始めたトランプ政権には、アメリカの多くの有権者が困惑しているのは事実だ。世論調査でも、イラン攻撃にしても、移民摘発にしても行き過ぎだという声が多数を占める。けれども、そうした困惑や反対の声を受け止める政治家が少ない中で、与野党ともに対応は迷走している。

 そんな中で、自分がまいた種とはいえ、現実と苦闘しているトランプ政権について、当分は「困った状況ではあるが、とりあえず様子を見よう」というのが、現時点でのアメリカ全体の雰囲気と言える。

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