夢破れガラパゴスに
ロシア国内リーグが盛り上がらず、集客が低迷している原因として、そもそもワールドカップ用に整備された一連の新スタジアムが、必ずしもプレミアに所属するような強豪クラブのホームスタジアムになっていないという問題がある。
18年に日本代表がベルギー相手に壮絶に散ったロストフ市は、サッカー熱がありながら従来は貧弱なスタジアムしか存在しなかった。ここ数年、地元のFCロストフは新スタを起爆剤に安定した戦いを続けていて、これは成功例だ。
逆に、日本が初戦でコロンビアを破ったサランスク市は失敗例の最たるもので、元々が小さい街の上に、地元クラブが20年に経営破綻してしまい、4.3万人収容のモルドヴィア・アレーナは空き家状態が続いている。日本がポーランドと塩試合を演じたヴォルゴグラード市でも、地元FCロートルは下部リーグ暮らしが長く、4.5万人収容のスタジアムを持て余している。
興味深いのは、ロシア南部を代表する大都市でありながら、ワールドカップ開催都市から外れたクラスノダル市だ。同市のFCクラスノダルは、富豪が自腹で建てたサッカー専用スタジアムを擁し、2024/25シーズンにプレミア初優勝を遂げた。今季も優勝争いをリードしている。ここ数年のロシア・サッカーで最大のサクセスストーリーが、ワールドカップのレガシーとはまったく関係ないところから出てきたという、皮肉な現象である。
さて、実はロシア国内リーグの集客にとって最大の打撃となったのが、ファンIDの問題であった。これは、18年ワールドカップでの観客の事前登録制が上手く機能したので、それをロシア国内リーグにも適用して観客席のコントロールに利用しようとしたものである。21年暮れに決定し、22年12月に全面施行された。
これにより、国内リーグを現地観戦するためには、あらかじめ政府のポータルサイトで申請を行い、顔写真提出と個人情報入力を行い、承認を受ける必要が生じた。スタジアム入場には、チケットに加え、ファンIDを提示しなければならない。西欧諸国などにも問題人物を監視する仕組みはあるが、ロシアの場合は全観客に登録を義務付けた点が特異だった。
多くのファンがこれを国による締め付けと感じて反発し、サポーター団体などは一斉に観戦をボイコットしたのである。一時は来場者が半減するほどの大問題となった。
そして、言うまでもなく、ウクライナ侵攻でロシア・サッカーが国際舞台から締め出されたことも、打撃となっている。ロシア・サッカーは、一応はヨーロッパとは地続きで、ロシア勢も勝ち続ければチャンピオンズリーグやヨーロッパリーグに進出できた。それは、名誉だけでなく、財政的にも多大な恩恵をもたらした。今や、そのルートが完全に断ち切られてしまったわけで、それだけ国内リーグのテンションも下がり、盛り上がりを欠くことになる。
ロシアの「世論基金」がロシア国民にサッカーへの関心度を尋ねた調査結果が昨年発表され、それがなかなか衝撃的だった(下記グラフ参照)。「貴方はサッカーに関心がありますか?」と尋ねたところ、「関心がある」と答えた回答者は直近で15%に留まり、10年前と比べて大きく低下していたのである。
ワールドカップという世界的大イベントを自国で開催しながら、サッカー熱がこれだけ低下した国というのは、他にあっただろうか。

