持ち帰ったものは「空手形」
だが中国は、米国の発表内容を即座に追認せず、その後の数日をかけて各項目について、慎重に確認や見解公表を行った。また19日には、投資・貿易に関する協議委員会の設置や、AIに関する政府間対話の計画を発表し、20日には貿易戦争再燃の回避措置で双方が一致したと発表している。
ただし、実効性には疑問が残る。イラン問題で中国が米国に同意したのは、自らに利害のある部分だけである。19日にトランプが述べたような、中国はイランに武器を送らないといった口約束も、中国がウクライナ侵略を続けるロシアへ秘密裏に軍用品を支援しているように、信用できるものではない。
レアアースの供給や航空機・農産物の購入も、中国の一存でいかようにも左右できる。現にレアアースは、2025年10月に供給円滑化で合意していたが、以降も中国は肝心の一部物質の供給を意図的に絞り続けている。
要するにトランプは、確約もない中国の「空手形」を掴んで、それを「素晴らしい」「歴史的な」貿易協定と言い繕っている。より正確に言えば、トランプは米中対立の表面的な先送りを優先したいあまり、「空手形」でも甘受しなければならない立場に置かれていた。そうした状況にある以上、首脳会談でトランプが、香港の民主派新聞『アップル・デイリー』社主で、国家安全維持法違反によって獄中にあるジミー・ライ(黎智英)の釈放を提起しても、習近平から「難しい」とにべもなく拒絶されたのは当然であった。
アメリカを「あしらう」中国
かたや習と中国は、自らに有利なペースで事を進めたようだ。習は14日の会談で、トランプ訪中は「新たな大国関係の位置づけ」の始まりと述べた。そこからは、今回のトランプ訪中を利用し、中国が演出したかったものを理解できる。
すなわち、もはや中国は米国と対等に向きあえる大国で、その新たな関係性をアメリカに突きつけ、世界に向け発信することである。同日夜の歓迎宴でも習が、「中米関係の安定は80億を超える世界の人々の利益にかかわる」「(トランプ訪中は)未来を切り開く節目」「ライバルでなくパートナーとして共に繁栄すべき」と述べたことは、これをよく表している。
中国がこうした態度に出られるのは、自国経済や国際関係に一定以上の堅調を見出しているからである。トランプ関税による貿易戦争は、グロバールサウスを中心に市場を固めて乗り切る目途がたち、中東情勢で不安定化するエネルギー供給も、ロシアその他との協力で乗り切れる算段がついている。
