勝利を生む「装置」
4年前のW杯カタール大会では「森保ノート」に注目が集まった。試合中、何度も小さなノートを開いてしきりに何かを書き込んでいた。いったい何が書かれているのか。
些細なことでも気づいたことをメモに書き込んで、後で確認する。森保がこの習慣を始めたのはマツダ時代。筑波大学出身で社員教育に熱心だった今西総監督からサッカー日誌をつけるよう指導されていた。当初は忘れた時の備えが目的だったが、習慣づけられていくうちに思考が整理され、深まっていく効果も表れてきた。
<ブラジル戦に向けた練習中、森保にとって極めて大切なフレーズが脳裏に浮かんだ。「練習中にふと『同じ目線で戦うのを忘れてはいけない』という言葉が頭に浮かびました。過去の実績やFIFAランキングを見て相手を格上だと感じすぎ、その気持ちがプレーに現れるのが一番良くない。チーム心理がそうなったときに、どう引き締めるか。いろいろな考えが湧きあがってきました」>(203頁)
カタール大会のスペイン戦では「日本に不可能はない」という言葉が浮かび、自分でもその一言を言い聞かせるようにして何度も反芻した。結果的に「日本に不可能はない」という思いがチームに浸透させて好結果につながった。
23年の野球の世界大会ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の米国との決勝戦を前に、大谷翔平が「憧れるのを辞めましょう」とナインに声を掛けたエピソードを連想させる話だ。
<森保にとって、ノートはただの記録帳ではない。勝負の言葉を生み出す装置なのである>(203頁)と著者は分析している。
「静かな改革」で臨む大舞台
18年W杯ロシア大会で西野朗監督の下でコーチを務めた森保は、日本代表を支えるチームスタッフの重要性を誰よりも知っている。カタール大会後の「第2期政権」では体制をさらに充実させた。
長谷部誠、中村俊輔を新たにコーチ陣に加え、「セットプレー分析担当」のポジションを新設し、4人の分析官を配置。前田遼一コーチとタッグを組み、日本の大きな得点源となっているセットプレーについて選択肢を広げる一方、予想される対戦相手についても分析を深めている。
最後に著者はこう結んでいる。<森保が進める「静かな変革」。ここまで緻密にチームと組織をつくりあげている代表は他にないのではないか。あらゆる人たちの想像を超えるための準備は整った。あとは目の前の山をひとつずつ越えていくだけである>(210頁)。我々も世紀の「大逆転優勝」を楽しみに、一緒に応援していきたい
