2026年6月10日(水)

World Energy Watch

2026年6月10日

欧州と日本の石炭火力の事情

 気候変動問題が注目を浴びるようになってから、石炭火力は環境活動家の攻撃の的になった。欧州の活動家は石炭火力の廃止を求め、欧州の多くの国も石炭火力の廃止年を定めた。

 たとえば、国内に褐炭(品質が悪い石炭)炭鉱を持つドイツは、38年に石炭火力全廃を決めた。フランスは来年石炭火力を廃止する計画だ。欧州主要国は石炭火力廃止を決めているが、その背景には欧州主要国が国内の石炭を掘りつくした事情がある。

 欧州の石炭火力は内陸部の炭鉱の隣接地に建設されている。石炭の輸送費は高くつくので、経済性から当然の立地の選択だ。

 欧州主要国の石炭生産は、採炭条件の悪化、埋蔵量の枯渇を反映し減少を続けている。生産の落ち込みを輸入炭で補うとすれば、荷揚げ港から鉄道、はしけ、トラックで輸送する費用は高くつきコストが上がる。

 炭鉱の閉鎖に合わせ老朽化した発電所が廃止されるのは経済性から当然の選択だ。気候問題がなくても閉鎖されるはずだ。

 日本の石炭火力発電所は、当初から輸入炭の利用を前提に大型港湾を備えた沿岸部に建設された。価格競争力のある輸入炭なので低コストだ。設備も欧州ほど古くない。 

 石炭は、政治経済的に安定した北米、オーストラリア、インドネシアなどで生産されており、日本は石油とは異なり主としてオーストラリアから輸入している(図-5)。

 日本政府は、気候変動対策のためとして発電効率42%未満の非効率石炭火力を段階的に廃止する方針だ。そんな中、ホルムズ危機を受け石炭火力の利用を考えるべきとの声があがる。危機の緩和に貢献すると言うが、本当だろうか。

気候ファーストがエネルギー価格を後回しに

 20年に菅義偉首相(当時)が50年温室効果ガス実質排出量ゼロを宣言してから、日本政府のエネルギー政策の第一の目標は気候問題になったようだ。

 GX(グリーントランスフォーメーション)を掲げ、水素、電気自動車(EV)、再エネ設備など脱炭素投資による経済成長を目標とした。10年間で150兆円の投資を謡った。政府は20兆円を先行投資するが、後に炭素価格を通し民間から回収されるのですべて民間企業による投資だ。

 脱炭素に熱心な欧州連合(EU)と同じ戦略のように見えるが、先行していたEUは脱炭素に利用する燃料、製品などの目標が未達になりそうだ。

 価格の高いエネルギー、製品には需要が付かないからだ。エネルギー危機によるインフレも脱炭素のコストを一段と引き上げた。

 欧州内では世間の関心は気候問題から手頃な価格(アフォーダビリティ)に移り、50年脱炭素目標の達成は無理との声も聞こえている。多くの政府の現在の目標はエネルギー価格引き下げだ。

 一方、米国トランプ大統領は、脱炭素など知ったことではないとの立場だ。石炭産業支援に7億ドルの補助金支出を発表した。

 日本は相変わらず気候問題の旗を高々と掲げ脱石炭を進めているが、政策の優先順位を考えるべき時だ。

 エネルギー危機を受け石炭見直しの意見が出ているが、石炭が必要なのは安価な発電のためだ。エネルギー危機とは直接の関係はない。日本の産業と家庭のために石炭火力が必要なのだ。

なぜ石炭火力が必要なのか

 石炭火力は現在の日本の発電量の約3割を担っている(図-6)。日本政府の方針は火力設備を削減し原子力、再エネ設備で代替することにある。自給率が上がり、将来のエネルギー危機の影響も軽減される。

 仮に二酸化炭素排出量が少ないLNGが石炭を代替してもLNGの供給も米国、オーストラリアなど同盟国に多くを依存しており、中東依存率は小さい(図-7)。石炭供給国との比較でも変わることは多くない。

 ホルムズ危機が招いたのは、主としてナフサを原料とする塗料、プラスチックなどの製品の供給問題だった。石炭火力を維持しても解決できる問題ではない。原油、石油製品の輸入の多様化、日本での備蓄量などにより解決を図る問題だ。


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