2000年に新官邸ビルが竣工後した後は、セキュリティーの強化などもあって記者団が首相に接触することが難しくなったため、1日2回、首相がぶら下がりに限定して取材に応じるというルールが出来上がった。その後、曲折があって慣行が崩れ、政権によって回数の違いが出てきたようだ。
記者会見、ぶら下がり取材を最小限にとどめ、出席記者、質問に制限を加えていれば、権力側としては無難、快適だろう。失言を避けることもできよう。
首相は中曽根氏の気概みならえ
首相周辺では今、自民党総裁選で秘書が他候補を中傷する動画のSNS投稿に関与したなどの疑惑が取りざたされている。そんなこともあって、痛くもない腹を探られるのがいやなのかもしれないが、内閣総理大臣たる者、いわれのない批判や攻撃にさらされるのは日常茶飯事だろう。
かつての総理大臣は、それを受けて立つ力量、貫禄を備えていた。
故中曽根康弘氏が首相の時、筆者はその番記者だった。分刻みで難題の処理にあたる首相が、所かまわず遠慮会釈なしに質問を浴びせる若い記者の存在に辟易する様子を見せることもないわけではなかったが、ほとんどの場合、稚拙な質問にも真摯に耳を傾け、誠実に対応してくれた。時に政策課題を解説してくれたり、的外れな質問をして、たしなめられる記者もいたりした。
忘れられないのは1985(昭和60)年8月15日、中曽根首相が靖国神社に詣でた時だ。記者団のぶら下がり取材に答えて、「内閣総理大臣として参拝した。公式参拝だ」と明快に語った。
それまでの首相は、「私人」としての参拝だったから、大きな転換だった。われわれはそのニュースを速報で伝えた。中曽根氏は「公式参拝」をしたことを一刻も早く国民に伝えようと、ぶら下がりの場を活用したのだろう。ぶら下がりというのはそれほどの意味を持つのだ。
高市首相も、メディアの背後の国民の存在に思いを致し、「どこからでも来い」という気概で質問を受けて立ち、政策、政治哲学を国民に問うてほしい。それが政治家の器量というものだろう。
