2026年7月2日(木)

Wedge REPORT

2026年7月2日

人は「言葉」ではなく
「一貫性」に定着する

 社員は、誰にも等しく与えられている〝時間〟という貴重な資源を会社に投じている。その投資に見合う成長があるか。誇りがあるか。仕事が誰かの役に立つ実感があるか。優秀な人材ほど、その問いを強く持っている。その投資にこたえようとしない企業に、人がとどまり続けることはない。

 社員の定着率が高く、会社も成長を続けている企業には、共通する土台がある。掲げている理念が、教育の内容や日々の仕事、評価の仕方、上司や同僚とのやりとりにまで行き渡っていることだ。理念が額縁に入った飾りで終わっている会社では、人は育たない。採用の場で「成長できる」「人を大切にする」と語っても、入社後の現場で待っているのが忙しさによる放置、上司任せの教育、理念と矛盾する日々の業務であれば、若い社員はすぐに見抜く。

 その意味で、北海道を代表する菓子メーカー「六花亭」の取り組みは示唆に富む。同社の人材育成の中心には、数字よりも人を見る姿勢がある。象徴的なのが「1人1日1情報制度」である。正社員だけでなくパート社員も含め、全ての働き手が仕事の改善提案、お客様の声、その日の出来事などを自由に発信できる。トップが目を通し、その一部は日刊の社内新聞「六輪」に掲載される。現場の気づきは、職場を越えて共有され、店づくり、菓子づくり、そして人づくりに生かされている。

 この制度の本質は単なる情報収集ではない。「あなたの気づきには価値がある」と会社が伝えている点にある。人は自分の言葉が届くと感じた時、仕事への向き合い方を変える。自分は作業をこなすだけの存在ではなく、会社をよくする一員なのだと実感できる。そこに帰属意識が生まれ、成長意欲が育つ。

 六花亭の人づくりを象徴するエピソードがある。同社の看板商品「マルセイバターサンド」の原料となるレーズンにはかつて、枝や茎などの異物混入をいかに防ぐかという課題があった。外部に委ねていた作業では、求める水準に届かない。そこで同社はレーズン選別を内製化した。効率だけを考えれば外注のままのほうがよかったかもしれない。しかし同社は「一番の差別化は我が社で働く人にある」と考えたのである。

 23年度の最優秀社員賞を受賞した太田寧子さんは、そのレーズン選別に携わった一人だ。お客様の不安の声に向き合い、自分に何ができるかを問い続け、日々の改善を重ねた。その積み重ねがお客様の信頼を取り戻し、名菓を支える力となった。

 創業者が定めた六花亭の基本方針には「おいしいお菓子を作ろう 楽しいお買物の店を作ろう みんなのゆたかな生活を作ろう そして成長しよう」とある。成長とは、売り上げや店舗数の拡大だけではない。働く一人ひとりが人間として、仕事人として成長することである。名菓は機械や原材料だけでできるのではない。お客様の声を自分事として受けとめる人によって支えられている。

 もう一つの事例がスープ専門店「スープストックトーキョー」である。同社は「世の中の体温をあげる」という理念を掲げる。この言葉は、商品や店舗づくりだけに向けられたものではない。働く人の体温もまた経営の対象になっている。

 飲食業は一般に長時間労働、人手不足、休みの取りづらさといった課題を抱えやすい。その中で同社は働き方を会社に合わせるのではなく、働く人の人生に会社がどう寄りそえるかを考えてきた。年間12日の「生活価値拡充休暇」、複業を可能にした「ピボットワーク制度」、全社員が使える「セレクト勤務制度」などはその姿勢を表している。

 生活価値拡充休暇は、働く人が生活の質を高め人生を豊かにするための休暇である。ピボットワーク制度は、同社に軸足を置きながら社外やグループ内で複業に挑戦できる仕組みである。セレクト勤務制度は、1日8時間のフルタイムから6時間まで30分刻みで勤務時間を選べる時短勤務制度であり、育児に加え就学や自己研鑽にも適用を広げている。

 これらの取り組みが優れているのは、社員の流出をただ恐れるのではなく、社員の可能性が広がることを会社の価値として受け止めている点にある。社員が外の世界に触れ、自分の強みや関心を知り、その経験を会社に持ち帰ることを歓迎する。そうした会社のほうが結果として選ばれ続ける。


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