この乖離をなくそうとしたのが、安倍晋三首相だった。安倍氏は国会で「国民の命を守るために精励する自衛官に、違憲の議論が残るのをなくすことが私たち世代の責任だ」と答弁。2017年に自衛隊の根拠規定を設けるための9条改正を政治課題とし、自民党は翌18年に憲法改正案をまとめている。だが、22年に安倍氏が凶弾に倒れ、その後は政治とカネの問題などで自民党は急速に国民の信を失い、憲法改正議論は下火となった。
高市人気で何が起きているのか
ところが、その流れが変化したのは、安倍元首相の路線継承を掲げた高市早苗氏が昨秋、女性初の首相となり、国民の高い支持を背景に挑んだ今年2月の総選挙で、自民党が戦後最大の議席数を獲得したことだ。旧社会党系の社民党は1議席も獲得できず、共産党も大幅に議席を減らす中、高市政権は防衛力の強化、安全保障関連3文書の見直し、武器輸出の拡大、憲法改正など国論を二分してきた政策に取り組む意欲を示している。
こうした状況の中で何が起きているのか――。総選挙から2週間後の2月23日、熊本市内の自衛隊駐屯地では、全国から30以上の市民団体約1200人が集まり、長射程ミサイルの配備に反対する抗議活動が行われた。「熊本を戦場にするな」「武力で平和はつくれない」などの声をあげる一方で、プラカードには「中国侵略戦争を許さない」という意味不明な文言に加え、「トランプ・高市打倒」の文字が掲げられていた。
また政府は2024年以降、緊急事態に備え、自衛隊や海上保安庁が平時から訓練などで使える「特定利用空港・港湾」の指定を進めている。これまでに57施設が指定されているが、26年4月に指定した四国の高松空港と松山空港を巡って、複数の市民団体が「空港を軍事利用させない」と抗議の声を上げている。国から秋田空港と秋田港などの指定を打診された秋田県では6月、立憲民主党の県議が「迷彩服を着た方がどんどん街を歩くようになれば、観光にも影響する」という発言まで飛び出している。
さらに同じ6月には、名古屋大学の学園祭で予定されていた自衛隊の災害派遣活動を紹介するブースの出展が、同大学の職員組合が自衛隊出展に反対する声明を発表、急きょ取り止めとなっている。憲法は集会結社と表現の自由を認めており、賛成と反対があってもいいが、これだけ短期間に多くの市民団体によって続けざまに自衛隊や防衛に関する問題で抗議活動が繰り返されている。自衛隊を侮辱した古賀議員の発言も、個人の突出した意見というより、こうした政治的な動き、流れの一環で行われたと考えたほうがいい。
裏を返せば、高市首相が「1強」という政治基盤を背景に、安全保障など「国論を二分する政策を進める」と言っている以上、今後も自衛隊や防衛問題を巡って、市民団体と称するグループが様々な機会を捉え、抗議行動を活発化させることが予想される。
名古屋大学のケースで防衛省は「関係者間で丁寧な調整と準備が重ねられてきたにもかかわらず、直前で出展が見送られたことは極めて遺憾だ」と、出展準備の写真を添えて異例ともいえるコメントを出し、小泉進次郎防衛相は「大学の学園祭で自衛隊による災害派遣の活動紹介すら認めない」との憤りをXに書き込んでいる。
同様に政府は、これからも頻発が予測される抗議行動に対し、むしろ国民にきちんと説明する機会が増えたと捉え、新たな防衛装備品の部隊配備なども含め、これまで以上に丁寧な情報発信を心がける必要がある。
