捜査への外圧疑惑も重なって事件は政争へと拡大し、のちに特別検事が任命され、その矛先は当時の尹錫悦大統領にまで及んだ。死亡当時の師団長は後に実刑を言い渡されている。
住環境の悪さで増える離職軍人
38度線に近い山あいの駐屯地。そのかたわらに、ぽつんと建つ官舎がある。最寄りのコンビニまで車で数十分、買い物は基地内の売店(PX)が頼りで、休日も同じ面々と顔をあわせる。
これが「一人ぼっち官舎」の実態だ。孤立と不便がつきまとうこの暮らしが、職業軍人が離職する大きな理由の一つになっている。
官舎に住むのは徴兵された兵士ではなく、将校と下士官とその家族。妻帯者には家族用の戸建て官舎が、独身者にはアパートタイプの宿舎があてがわれる。
将校は昇進や補職に応じておおむね1〜2年ごとに転勤し、そのたびに一家で引っ越し、子は転校を重ねる。下士官は比較的一つの地域に長くとどまるが、独身者の宿舎は老朽化し、いまだ相部屋も残る。
近年、軍を支える将校・下士官が軍を去っている。社会の変化や賃金の低さ、戒厳をめぐる混乱後の軍の地位低下に加え、こうした住環境の悪さも「軍に残らない理由」として挙げられる。希望して中途退職する者は後を絶たず、ある専門家は、兵力減と並ぶ深刻な問題だと警告する。
これに国防部が重い腰を上げた。安圭伯国防部長官は6月18日、前方の陸軍第15歩兵師団を訪ね、官舎や宿舎を見て回った。引っ越しの度にかかる入居清掃費、都市ガスがなくプロパンガスに頼る官舎の高い暖房費など家族の訴えに、補助を約束した。
さらに各地へ散らばる小さな官舎を、店や共用施設のそろった大規模団地へ集約することも表明。韓国陸軍の要衝とされる春川では、31年の竣工を目標に住宅団地を造り、36年まで拡充していく。民間賃貸を選ぶ世帯への支援も広げ、選択肢を増やす。
家族向けの配慮も細かい。官舎の申請でお腹の子を扶養家族と数え、入籍前の婚約者も申し込めるようにした。住まいの安心が勤務へのモチベーションにつながるという発想だ。ただ、賃金や軍の地位という重い課題が残る中で、住環境の改善だけで離職者を減少させることは難しいだろう。
