2026年7月8日(水)

教養としての中東情勢

2026年7月8日

 こうした最高指導者に対する工作が実って対米交渉が正式に承認されたが、ホルムズ海峡の外側のオマーン湾やアラビア海での米国の「海上封鎖」がイラン側に深刻な打撃を与えていたことが分かる。イランは昨年、日量169万バレル(約222億円)の石油を輸出していたが、それによる外貨が全く入ってこなくなったからだ。

 だが、壮大な葬儀が進む中、「最高指導者が不在の中で誰が国を動かしているのか」という素朴な疑問も高まる一方だ。モジタバ師が姿を見せないのは父親が殺害された爆撃時に同じ敷地内におり、片足切断などの重傷を負ったことが大きいが、イスラエルによる暗殺作戦を警戒している面もある。

 しかし、いつまでも公の場に姿を現さないのは国民の不信を招き、最高指導者としてふさわしい人物かという疑問を惹起する。その意味では今回の父親の葬儀が登場するのに最もふさわしい舞台だ。本人はシーア派の聖地北東部のマシャドで行われる9日の埋葬式に出席する意向だというが、警護機関は暗殺を恐れて反対しており、こちらも注目の的だ。

保守派と超保守派の権力闘争激化

 イランの水面下でもう1つ忘れてはならないのは内部の権力闘争が危険な水域まで先鋭化していることだ。イランの権力闘争と言えば、革命以来、保守派と改革派の争いと言われてきたが、ここにきて保守派と超保守派の対立が激化している。超保守派とは対米交渉や核問題などで一切の譲歩を拒否し、米国との戦争を長期化させることで勝利すると信じている一派だ。

 保守派は対米強硬派ながら、現実的かつ実務的な考え方を優先させる勢力だ。主流派といえる。

米国とイスラエルの攻撃で指導層の約40人が殺害され、結果として世代交代が実現。「大胆で自信に満ち、より強く、よりしぶとくなった」(中東専門家)。中心はガリバフ国会議長、バヒディ革命防衛隊司令官、ゾルガドル最高安全保障会議事務局長、レザエイ最高指導者軍事顧問らだ。

 彼らは物価高騰に端を発した今年1月の反政府デモを力で弾圧し、5000人以上を虐殺した。トランプ大統領は「賢く過激ではない」などと交渉相手として評価しているが、前の指導層よりもはるかに手ごわいと言えるだろう。

 ニューヨーク・タイムズによると、6月末にガリバフ国会議長が国営テレビで米国との覚書について説明している際、放送が突然切られる騒ぎがあった。超保守派の妨害とみられている。超保守派はこの日の深夜にテヘラン中心部で集会を開催、対米交渉者を「死刑にせよ」などと気勢を上げた。

 両勢力は互いにモジタバ師を自分たちの勢力に取り込もうとしているという。ガリバフ国会議長ら保守派は最高指導者としてモジタバ師を強く推したが、超保守派は違う人物を推挙していた。議長やアラグチ外相らの交渉担当者は国内での反対を抑えて交渉に臨んでいることを米国側も知っておく必要がある。


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