役所が依拠する「科学的根拠」
では、どのような「科学的根拠」に基づいて数量上限を見直そうとしているのか。一つ考えられるのが、昨年25年に日本側がワシントン条約締約国会議に際して関係各国に提示したニホンウナギについての資源量推定である。
同締約国会議では、欧州連合(EU)からニホンウナギを含む全てのウナギを附属書に掲載して輸出を管理する提案が上程されていた。提案は輸出を禁止するものではないが、採択されれば輸出国による許可書の発給が必要となる。
この提案を阻止すべく、日本側は14年と25年に「日本水産学会」の学会誌に掲載された論文(Tanaka 2014; Tanaka 2025)をもとに、ニホンウナギは90年代を底に大幅に増加していると各国に訴えている。ワシントン条約締約国会議では附属書掲載提案は否決されているが、もし日中台韓ウナギ非公式協議で枠を上方修正するのであれば、「ウナギは増えている」論文は有力な根拠となり得るだろう。
ニホンウナギの附属書掲載提案否決に貢献した論文のうち25年に公刊されたもの(Tanaka 2025)は、日本水産学会から論文賞を授与されている。論文筆者によると、当該論文は水産庁からの打診に基づき作成されたもので、「日本水産学会も協力的で査読(筆者注:論文掲載の可否を審査するプロセス)を速やかにしていただいた」「関係者の皆さんの協力なくしてはこれだけの短期間で公開できなかった」「今回の論文は〝オールジャパン〟でつくられたもの」とのことである(水産経済新聞2026年4月10日)。
ただ問題なのは、ウナギの研究者の間では、「ニホンウナギは増えている」という見解は極めて少数派であるという点である。今年公開された研究(Kaifu 2026)によると、過去10年以内(2016~25)に公表されたニホンウナギについて言及のある学術論文164本のうち、99.4%の163本が当該資源は減少している、あるいは絶滅の危機に瀕しているとしており、資源が増加しているとしているのは、日本側がワシントン条約の附属書掲載提案に際して用いた論文(Tanaka 2025)のみである(Kaifu (2026), p. 13)。
「ニホンウナギは増えている」と主張する論文は多くの前提のもとに成り立っており、結論の不確実性が極めて高い(詳しくはKaifu (2026)並びに同論文筆者によるYoutube解説動画および「ウナギは増えている」は本当か?水産庁よ、不都合な真実を隠すことはもうやめようを参照)。
昨年発表されたKaifu et al. (2025)論文によると、8水域のニホンウナギの資源データを調べたところ、8カ所のうち7カ所で統計的に優位な資源の減少が見受けられ、ウナギ3世代(24年間)当たりの減少率は79.2%~99.9%とされている。ニホンウナギ資源が減少しているとの見解はウナギ研究者の間でもほぼコンセンサスが得られていると言えよう。

