待機の原因は港の外にある
なぜ、港湾で長時間の待機が発生するのか。この問いに、港側の要因だけが語られがちだ。確かに岸壁、ヤード、ゲート、荷役機械、人員には物理的な上限があり、天候やシステム障害が重なれば処理は滞る。だが、港の能力不足だけに着目すると本質を見誤る。サプライチェーンを上流からたどれば、待機を起こしている原因の正体が見えてくる。
起点は海上にある。紅海リスクによるスエズ運河の回避で喜望峰迂回が続き、ホルムズ海峡危機で中東最大のハブであるジュベル・アリの積み替え機能も大きく制約され、世界の主要港湾への圧力が高まっている。コンテナ船は本来、電車のダイヤのように等間隔で運航される前提で港の処理能力が組まれており、港に集中して到着すればさばききれない。
Sea-Intelligenceによると、26年5月の世界の定時運航率は64.7%と同年で最も高い水準になったが、遅延が発生した船の平均遅延は5.52日と5日を超えたままだ(遅延到着船のみの平均)。
船の到着がずれれば、まず通関予定がずれ、その先で待つドレージの配車枠が合わなくなる。さらに下流では、納品先の荷積み・荷下ろしスペース(バース)や荷下ろし作業(デバンニング)の予定が崩れ、倉庫の作業員、フォークリフト、荷さばきスペースがそろわなければ、貨物を受け入れられない。
ここに荷主企業と運送会社の防衛行動が重なる。到着日が読めなければ、荷主企業は安全在庫を積み増し、輸入を前倒しする。追加料金なしで港にコンテナを保管できるフリータイムを長く確保することもある。
運送会社も、限られた車両を有効に使うため、待機の長いターミナルを避け回転のよい案件を優先する。
どちらも個社としては合理的である。だが、混雑は誰か一人の失敗ではなく全員の合理性の総和として生まれる。
こうして上流のずれと陸側の行動に挟まれ、コンテナは行き場を失って港のヤードに残る。こうした置いたままの保管が増えれば荷物の並び替えや整理といった作業が増え、荷役効率とトラックの回転率が下がり、ゲート前の列が延びる。長いフリータイムが主要因とは言えないが、受け入れ制約と重なれば滞留を長引かせる増幅要因になり得る。
港の待機とは、港だけで生まれる現象ではない。各工程で生じたずれと、それに備える一つひとつの合理的な行動が、結節点である港にしわ寄せとして現れたものである。
筆者が接する荷主や物流事業者からも、「最近では船が着き通関が終わりドレージを確保できても、倉庫作業員の不足で受け入れ体制がそろわず、その日にデバンニングできない」という声を聞くことが増えた。
上流が順調でも、下流工程が一つ欠ければ貨物は止まる。港は、複数工程のずれのしわ寄せが集まりやすい場所なのである。
