自衛隊創設60周年に当たる7月1日、安全保障法制の整備に関する基本方針が閣議決定され、「保有すれども行使できず」とされてきた集団的自衛権をめぐる長年の議論にもようやく1つの結論が出た。だが、世論は今回の決定に否定的で、各紙の調査では集団的自衛権の行使に「反対」が過半数で、「賛成」は3割ほどにとどまっている。
7月28日付の日本経済新聞の世論調査では、安倍政権への支持率は50%を割り、集団的自衛権の行使に歯止めが「かかる」との回答は23%で、「かからない」の53%を大きく下回っている。集団的自衛権の行使によって抑止力が「高まる」との回答は33%で、「そうは思わない」が47%であった。
今回の閣議決定に反対する人々は、憲法の平和主義がないがしろにされ、日本が「戦争のできる国」になったと声高に批判を繰り返している。8月4日には、157人の憲法学者が閣議決定は「暴挙」として撤回を求める声明を発表した。
行使事例では過半数が賛成
そのような中、7月4日付の読売新聞に掲載された世論調査が興味深い現象を示している。集団的自衛権の限定行使については、「評価する」が36%、「評価しない」が51%で、反対が過半数を占めている。だが、日本政府が集団的自衛権行使の事例として挙げた、紛争中の外国から避難する日本人を輸送する米軍の艦船を自衛隊が守れるようにすることに関しては、「賛成」が67%、「反対」21%となっており、また海上交通路の周辺で起きた紛争中に自衛隊が外国の艦船と協力して機雷を除去できるようにすることについても、「賛成」67%、「反対」23%と、いずれも行使容認が過半数を大きく超えているのである。
政治問題の合意形成では、総論賛成・各論反対となる傾向が一般的にみられるが、集団的自衛権に関しては、総論反対・各論賛成という逆転現象が起きている。つまり、国民は集団的自衛権の行使に反対と言いながら、実際に政府が行おうとしている行動には理解を示しているのである。国民が総論に反対しているのは、集団的自衛権という概念と今回の閣議決定の内容が正しく理解されていないためであろう。
集団的自衛権は1945年に発効した国際連合(国連)憲章で規定された、比較的新しい国際法上の概念である。集団的自衛権を理解するためには、まず国連の集団安全保障という概念を理解しなくてはならない。