影響は海上輸送だけでなく、陸上輸送にも及ぶ。米農務省によると、米国の穀物を運ぶ鉄道の燃料サーチャージは9月第2週に前年同期比153%増え、トウモロコシや大豆の鉄道輸送費に占める割合も5%から11%に上がった。これは米国内の穀物輸送コストを押し上げ、商品価格にも波及する。
さらに、航路を制約するのは地政学リスクだけではない。パナマ運河も流域の少雨を受け、パナマ運河庁は通航予約枠36枠を9月3日に34枠、15日に32枠へ縮小した。その後、10月15日から33枠へ引き上げると発表した。ただし流域の水不足は続いており、予約のない船は待機が延びる可能性がある。この影響は中東の外にも及ぶ。
日本は中東の代替として米国産原油の輸入を急増させており、7月の貿易統計では原油輸入全体の36%を占めた。米メキシコ湾岸からアジアへの大型輸送は喜望峰回りが中心で、船型によってはパナマ運河も使われる。
紅海では安全保障、パナマでは水資源。原因は異なっても、代替調達先を含め、どの航路をいつ使えるかが揺らぐ点は共通している。
原油は下がっても、軽油は下がらない
次に、作るコストである。
9月中旬、サウジアラビアの東西パイプラインがドローン攻撃を受けて停止した。東西パイプラインは9月22日に運転を再開し、紅海側ヤンブーでの原油積み出しも9月末までに再開した。ロイターが9月29日に報じたKplerの推計では、送油量は日量約265万バレルで、攻撃前の約550万バレルを下回る。数日内に日量300万~400万バレルへ増える見通しだが、攻撃前の水準に戻るにはなお約1カ月かかるという。
ブレント原油先物は9月15日に1バレル108.75ドルをつけ、22日には99.25ドルまで下げた。9月30日は、満期を迎えた11月限が103.50ドル、中心限月の12月限が98.03ドルで清算された。10月1日の12月限は98.67ドルで、9月全体では約14%上昇した。供給回復への期待による一時的な下落だけでは、相場の動きを説明できない。
ただし、原油価格が下がれば燃料全般がすぐ安くなるわけではない。国際エネルギー機関(IEA)によると、湾岸諸国とロシアの軽油・ガスオイル純輸出は8月、2月に比べ日量160万バレル減った。両地域は2月時点で世界の海上軽油取引の約45%を担っていた。湾岸諸国だけを見ると、8月の純輸出は戦前の4分の1強にとどまる。欧州の軽油先物は9月中旬に過去最高値をつけ、年初の2倍を超えた。
製造業では、工場の燃料や電力、石油化学系の原材料、物流を通じて原価上昇が及ぶ。原油指標だけでなく、実際に購入する燃料・原料の価格や契約の改定時期を見る必要がある。
1リットル約51円の補助が届かない場所
最後が、暮らしのコストである。
日本政府は燃料価格の上昇を抑えるため、元売り事業者などへの補助を続けている。資源エネルギー庁によると、10月1日以降の支給単価は、ガソリン、軽油、灯油・重油とも1リットル当たり50.7円(約51円)である。ただし、外航船舶用の燃料は対象外だ。国内の燃料小売価格を抑える仕組みはあっても、国際海上輸送の運賃や保険料を直接補う制度ではない。
