2026年10月22日(木)

解剖:「大きな政府」を好む日本

2026年10月22日

フランスの「大きな政府」は契約の政府である

 フランスは、先進国の中でも代表的な「大きな政府」の国である。2025年の一般政府支出は国内総生産(GDP)比57%台に達し、年金、医療、失業給付をはじめとする社会保障支出も大きい。高齢化した社会を政府が支えるという点で、日本が向かう先を先取りしているともいえる。

 この大きな政府を支えてきたのが、社会主義と親和的な国家観である。フランスには、共和国が市民の自由と平等を実現すべきだという考えがある。

 戦後には主要産業の国有化やディリジスム(国家主導主義)が採用され、保守政権の下でも国家が経済と社会を方向づける発想が維持された。フランス政治そのものが、国家による社会形成と親和的なのである。

 同時に、フランス人は強い国家を自分たちの上位にある存在として受け入れてきたわけではない。国家は国民を統治するとともに、人民の意思を実現する装置でもある。

 国家が人民を代表する以上、その政策は人民に直接責任を負う。政府が責任を果たしていないと判断すれば、市民は街頭に出て修正を迫る。

 このため、フランスの街頭は政府の第四部門にたとえられることもある。街頭での抗議は、市民が政府に応答を迫る政治参加の一部なのである。

 フランス人は高い税金や社会保険料を負担する代わりに、年金、医療、教育、雇用保障を国家に要求する。国家が恩恵を与え、市民が受け取る関係ではない。負担と給付をめぐり、双方が義務を負う政治的な契約である。

 政府が給付を減らし、退職年齢を引き上げれば、市民は契約条件の変更と受け止める。フランスのデモは大きな政府への拒絶ではなく、大きな政府に約束を守らせるための行動なのである。

 抗議によって政治を動かした歴史もある。1930年代の社会運動は労働者保護を前進させ、1968年の運動は賃金や労働条件の改善につながった。その後も政府が改革案を修正、撤回した例がある。抗議すれば政治が動くという経験が、次の抗議を合理的な行動にする。

 集団行動を支えるもう一つの柱が、産業別協約を広く適用する仕組みである。組合加入率が低くても、非組合員まで協約の対象となるため、少数の組織された人々の行動が社会全体の労働条件に影響しうる。抗議の成果が参加者だけに閉じない構造が、デモやストライキを支えている。

日本は国家が決め、市民が従う

 日本も大きな政府へ向かっている。2026年度一般会計当初予算では、社会保障関係費が39兆559億円、国債費が31兆2758億円、地方交付税交付金等が20兆8778億円である。

2026年度一般会計当初予算歳出(財務省資料より) 写真を拡大

 合計は94兆2095億円となり、歳出総額122兆3092億円の77.0%に達する。社会保障、政府債務、地方財政の維持が財政運営の中心となっている。

 日本の大きな政府は、フランスとは異なる歴史から生まれた。これまで本連載「解剖:「大きな政府」を好む日本」でも述べてきた通り、明治政府は欧米列強に追いつくため、中央集権的な官僚機構を整備し、産業、教育、軍事、金融、交通を国家主導で形成した。明治憲法制定後も、政府は超然主義を掲げ、行政官僚が国益を定義し、社会を導く構造を築いた。

 この意味で、日本には明治以来の国家社会主義的な伝統がある。市場や私企業を残しながら、官僚が国家目標を定め、企業と国民をその実現へ導く統治である。


新着記事

»もっと見る