ゆくりんも、残り湯の洗濯への再利用や、翌日の足し湯による入浴といった節約を意識して開発に踏み出した。皮脂を取る類似品は存在したが、野杁は銀粒子の活用による抗菌性の付加や高い耐久性の確保など機能を一気に高めた。
野杁達郎さん (Tatsuro Noiri)
(積水樹脂 住生活資材事業推進部 開発担当主任) 1981年生まれ。2003年大阪芸術大学芸術学部卒後、積水樹脂入社。デザイン室に配属され、橋梁や照明灯などを担当。07年に住生活部門に移り、モノ干し器具などを開発。近年は、雑貨ルート品も開拓中だ。社内の全女性社員を対象にした製品評価組織を立ち上げるなど、行動力が光る。
(積水樹脂 住生活資材事業推進部 開発担当主任) 1981年生まれ。2003年大阪芸術大学芸術学部卒後、積水樹脂入社。デザイン室に配属され、橋梁や照明灯などを担当。07年に住生活部門に移り、モノ干し器具などを開発。近年は、雑貨ルート品も開拓中だ。社内の全女性社員を対象にした製品評価組織を立ち上げるなど、行動力が光る。
そして、ヒットを決定づけたのがぬいぐるみカバーだ。もともと工業デザイナーとして入社した野杁ならではの技である。野杁はデザインにあたり、かねて「これだ」と思っていたぬいぐるみの老舗メーカーであるシナダ(東京都台東区)の門戸をたたいた。熱意が伝わったのか、シナダは同社の有力デザイナーを起用するなど、強い協力態勢を取ってくれた。
それでも、ゆくりんが世に出るにはハードルがあった。積水樹脂は道路関連資材など公共関連部門を主体とする企業であり、ゆくりんのような雑貨の世界は開拓途上。この商品の成功には疑問の声が優勢だった。結局、役員全員が自宅に試作品を持ち帰って評価することになった。
ここで、野杁は役員の家族向けにアンケートを仕掛けた。役員の夫人や子ども、孫といった「家族の方々の反響が後押ししてくれるはず」と読んだからだ。その反響は期待を上まわるほどに。今回の開発プロセスを経て、若い開発者はしたたかさも身につけた。(敬称略)
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