2024年11月24日(日)

Wedge REPORT

2014年10月8日

 実際、米国では既存のギャンブルの売上減少をもたらすほか、周辺地域での消費減少による既存産業の淘汰による雇用喪失と税収減をもたらす「カニバリゼーション」が発生することが認識されている。前掲NH州報告では、カジノ開業で周辺地域から40%から60%の「消費の置き換え」が発生すると推計している。

 第2に「カニバリゼーション」回避のためには外国からのギャンブラー確保が不可欠であるが、東京オリンピック時にはアジアのカジノ市場が飽和状態に突入しているリスクがある。ゴールドマンサックスは、東京・大阪等のカジノ市場1兆5000億円の約3割が外国顧客と推計し、根拠として中国北部の顧客の6割を日本が獲得するとしている。

 しかし、韓国では、冬のオリンピック(18年)目指してIRの建設計画が進んでいる。仁川国際空港近くのIR建設については3月にMGMが許可を得たが、ゲンティンも済州島でのIR建設計画を進めている。台湾も昨年IR建設に向けてカジノ合法化を認めた。アジア市場に周回遅れで参入する日本が外国顧客とりわけ中国からのVIPを獲得するのは極めて困難である。

 さらにマカオでの中国からのVIPの獲得は、年間2020億ドルの中国から海外へのマネーロンダリングを行っている「ジャンケット」と呼ばれる仲介業者の役割が大きい。不正に送金されたマネーが、カジノでのチップ交換等を通じて「洗浄」されているとされるが、闇勢力の介在とも絡んで日本で「ジャンケット」を認めうるのかどうかハードルは高い。

 第3は、日本経済全体からはカジノの利益が「共食い」に終わる可能性が高い一方で、確実に増大するのがギャンブル依存者増加による社会的被害とコストの増加である。ギャンブル依存症は「隠す病気、巻き込む病気」である。賭け金欲しさに嘘をついて家族や友人から借金し、はては高利貸しから犯罪にまで走る。家庭内暴力から離婚と言った家庭崩壊、怠業から失業そして肉体的精神的病気の発症。このようなギャンブル依存者増加による社会的犠牲や費用は容易に数値化しにくいが、NH州報告書は論争的な費用は除外しても1人年間5000ドルと推計している(表2)。この社会的被害とコストが重く日本社会に伸し掛かっていくことになる。


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