残業代は実質支給されず、土日の出勤も当たり前。「ブラック企業」が声高に糾弾される今日だが、教育現場を支える教師の労働環境改善についてはこれまで触れられることが少なかった。社会は「聖職」という言葉を盾に、教師に対して「滅私奉公」を強いてはいないか。
過酷な労働環境で破たんするワークライフバランス
最近よく、「ワークライフバランス」という言葉を聞くようになった。内閣府の定義では「仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる」ことという。若いうちはがむしゃらに働いても、家庭を持ったり、年を重ねたりするうちに「生活面にも時間を割きたい」と感じるようになる人は少なくない。ワークライフバランスの提唱には賛否両論があるが、これまで長時間労働が当たり前だった日本社会は確実に変わり始めていると感じる。
しかし、この「ワークライフバランス」の概念が通用しづらい業界がいくつかある。そのうちの一つが教育界だろう。教員に対して、保護者や生徒は、「子どものためにプライベートの時間を割いて動いてくれる先生はいい先生」という評価をどうしてもしてしまいがちだ。息子の入学式に出席するために自校の入学式を欠席した高校教師が問題になったことは記憶に新しいが、これも教員の「ワークライフバランス」を考えることのむずかしさを示した一例と言える。
今回は、首都圏の私立高校に勤める30代の女性教師、Aさんへのインタビューから、教員のワークライフバランスについて考えてみたい。
現在勤務する高校は6年目というAさん。勤務時間は8時30分~16時30分だが、残業や部活動指導、課外授業がある。毎日のように20時、21時頃まで残業し、土曜日曜も校内行事や入学試験問題の作成、準備で出勤することがある。残業代は出ない。
「教師は天職だと思っています。天職だと思っているんですけれど、やっぱり続けられるかどうかわからない。職場の環境が本当に良くないからです」
Aさんが言う「職場環境の悪さ」はいくつか理由がある。雑務や研修に追われ、本来の科目指導に時間を割けないこと、一般企業に比べてパワハラやセクハラの意識が低いこと、私学の一部にありがちな、教員を非常勤で長期間雇用し続ける風習。こういった問題の中で、話を聞いていて最も気になったのは教員にとっての「ワークライフバランス」だ。早く帰る先生より、遅くまで残って仕事をする先生の方が「熱心」という印象を持ってしまいがちだが、子どもにとって身近に接する大人が「仕事だけに追われプライベートに時間を割けない人」であって良いのだろうか。