BRICS銀行の所在地が上海に決まったことは象徴的なメッセージである。しかし象徴が現実になるには大きな飛躍が必要である。ロシアとインドが米国中心の一極世界を問題としても、すぐさま中国に従うことはないだろう。BRICSの5加盟国全部が国内の腐敗と戦っていることは、しっかりした国内制度の確立が困難であることを意味し、それはまた5カ国が共同で、新たな国際組織の創設という困難な課題に取り組めるのかの疑念を呼ぶ。脆弱なBRICS5カ国では、新しい世界秩序を創るには十分ではないようである、と述べています。
出典:Gideon Rachman ‘Cracks in the Brics start to show’(Financial Times, November 3, 2014)
URL:
http://www.ft.com/intl/cms/s/0/9dcc565e-5ec4-11e4-be0b-00144feabdc0.html#axzz3IFV7J9ys
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一時、有力新興国群としてBRICSはもてはやされたが、その影はすっかり薄くなり、最近、「BRICS銀行」の設立で注目されたが、うまくやっていけるかどうかは疑問である、と上記論説で、ラックマンは言っています。
BRICS(当初はBRICs)という呼称は、2001年11月、投資銀行ゴールドマン・サックスのエコノミスト、ジム・オニールが投資家向けのレポートの中で初めて使い、世界中に広まったものです。当時はブラジル、ロシア、インド、中国の4カ国(2011年4月に南アフリカが参加)の経済発展が著しく、そのまま発展すれば、4カ国のGDPの合計が、2039年には米日独仏英伊の6カ国のGDPを抜くなどともてはやされましたが、リーマン・ショック以降、世界経済は停滞し、ラックマンは現状を失望と表現しています。
BRICSは当初、単に経済発展の著しい有力新興国を列挙しただけのものでしたが、グループとして扱われ、それが次第に一つのインスティテューションのように考えられ、BRICS首脳会議が開かれるようになりました。5カ国に勢いがあった時はいいですが、経済が低迷してくると、実はインスティテューションとしての条件が整っていないことが目立ってきます。ラックマンがBRICSの第3の問題と指摘しているのはまさにこの点です。
BRICSは、本年7月、新開発銀行の設立に合意しました。インスティテューションとしての動きと言えます。この銀行が5カ国によりスムースに運営されれば、インスティテューションとしてのBRICSが見直されることになりますが、ラックマンはうまくいかないのではないかと言っています。新開発銀行は中国が主導権を取ろうとするでしょうが、他の4カ国がどう対処するか、銀行はBRICSがインスティテューションとしてどの程度機能できるかの試金石です。BRICSが欧米の向こうを張って新しい世界秩序を創るというのは、その先の話です。
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