今回の解散は野党の選挙準備が整っていない時期を狙ったと言われているが、このモデルになったのは、中曽根康弘首相の「死んだふり解散」(86年)だろう。ちょうど公選法改正が行われている最中で、法施行日までに解散はないと考えられていた時、中曽根は衆参同日選挙に打って出た。自民党は300の大台に乗る大勝を収めた。
解散で大勝に至った中曽根「死んだふり解散」と小泉「郵政解散」に共通しているのは、足下の経済の良さである。本誌1月号の「経済の常識・政策の非常識 拡大版」で原田泰氏が述べているが、この2人の時代しか、財政再建は進んでいない。
このことはある仮説を呼び起こす。派閥も資金集めも気にする必要がなくなった首相がその座を維持するために必要なのは、世論の支持だけだ。それはひとえに経済運営にかかっているのではないか。人々の嗜好が多様化し分断が進む現代において、世論をまとめるには経済が良くなければいけない。逆に言えば、経済さえ良ければ、あとはタイミングを見て解散を打てばよい。経済に陰りが見え始めた時に間を置かず、しかも経済運営そのものを争点化した安倍の戦術は示唆に富む。
小沢が手をつけ、小泉が仕上げた派閥解体と党本部強化。小選挙区制、政党助成金制度、政治資金規正法改正がもたらした総裁への権限集中と、省庁再編による官邸強化。野党の油断を突くのは中曽根「死んだふり解散」に、アベノミクスが是か非かという争点の単純化はもちろん小泉の「郵政解散」に範を取っている。自民党の歴史に埋め込まれた先人たちの教訓と数々の智恵をすべて活かしたのがアベノミクス解散だったと言うのは、後講釈過ぎるだろうか。(文中敬称略)
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◆Wedge2015年1月号より