2024年4月24日(水)

Wedge REPORT

2014年12月25日

國松:直接民主制ですね。

ブーヘル:はい。スイス型連邦主義と言われるものです。すべての問題は、その問題に関係するできる限り最末端のレベルの意思で解決すべきだという考えです。今、スイスには2300余の地方自治体がありますが、彼らが税率をどう決めるかは完全に自由です。税金のあり方と歳出を両方とも決めることができるのです。これは住民会議で徹底的に議論されます。

 例えば、新しい校舎が欲しいという場合、本当に意味がある投資かどうかを検討し、よし、それでは建設費を賄うために税金を上げようという話になる。逆に、何か不要だというものがあれば、税金を下げることもできるのです。これは非常に重要なことです。もちろん、理想通りに行っていないケースも探せばありますが、私がスイスで住んでいたコミュニティなどは完璧に機能していました。

國松:なるほど。日本の地域社会と対照的な状況のようです。日本も、かつては、相互扶助と連帯感の強い地域社会の伝統を持っていました。ところが、最近、その希薄化、あるいは崩壊が危惧されています。日本は、本格的な少子・高齢化の時代を迎えますが、それへの対応の中核を担うのは地域社会であり、その意味で、相互扶助の精神にあふれ、連帯感の強い地域社会の再生は、喫緊の最重要課題だと思います。安倍晋三内閣も「地域創生」を打ち出しています。そこで、ブーヘル大使に伺いたいのですが、スイスの地域社会の強さの秘訣は、どこにあるとお考えですか。地域社会の再生を目指す日本に、スイスの視点から、何か示唆いただけることはあるでしょうか。

ウルス・ブーヘル氏
(Urs BUCHER) 1962年生まれ。ベルン大学卒業(ベルン州弁護士資格取得)。90年外務省入省。在ブリュッセル・スイス政府EU代表部審議官、外務省・経済省統合室室長などを経て2010年8月から現職。

ブーヘル:日本の仕組みについて語るのは難しいですが、私たちの経験をお話しすることがお役に立つのではないでしょうか。高齢化に直面しているのはスイスも同じです。そうした中で、スイスの多くの自治体には、退職後10年間くらいの働いていない人たちや、子どもの手が離れた母親などが、高齢者の面倒をみるようなボランティアに従事する制度があります。週に一度か二度、お年寄りの自宅を訪ね、可能な限り一緒にいてあげるのです。これは個人とコミュニティの強力なコミットメントがなければできないことです。

 日本のように地域を超えて転勤したり、引っ越したりすることが多い社会では、そんなコミュニティを維持することは難しいと考えるかもしれません。しかし、最初のステップとして、例えば私の地元では、新しい家族が地域にやってきた時に、コミュニティが大歓迎します。引っ越した初めの段階から、ここがわが町であるという意識を持ってもらい、権利を実感してもらうのです。そうすることで、コミュニティに対する義務や責任も芽生えます。特に地方では、初めから、町の会合の場所や、道路の飾りつけといった様々な奉仕活動の日取りなどを教え、すべての活動に誘います。引っ越したその日からコミュニティの一員として生活してもらうわけです。


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