2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2015年2月24日

【アジアカップ観客射殺事件】イラク第3の都市モスルで、1月12日に行われたサッカーアジアカップ、イラク・ヨルダン戦を観戦していた少年13名が、ISILによって殺害された。モスルはイスラム国(ISIL)が勢力を広げている地域であり、サッカーは西洋のものとして観戦禁止令が出ているという。この事件のように、ISILのような過激派は、相手がイスラム教徒であって、何か問題がある行動を起こしていなくても、自らの論理と動機で殺戮する。(BRADLEY KANARIS/GETTY IMEGES)

 何かの目的があったとき、多くのムスリムの人も投票によって自分たちの意思を実現しています。他にロビーやデモなど、ムスリムの人たちが自分たちの意思を表明する機会はたくさんあります。ところが、今回のテロ事件は、そういった平和的で民主主義的手段ではなく、物理的な暴力で自らの意思を貫徹しようとした。これはフランスとかイギリスでの移民政策の変化とは、あまり関係がありません。

 財政赤字を増やして貧困層に対する社会保障を手厚くし、学校教育でムスリムに対するより正しい理解を求めていく。ムスリムの人権保護を法律でより手厚くする。それでテロはなくなるかといったら、実際のテロ事件を見ればそんなことはないわけです。経済格差や偏見をなくすこととテロを防ぐことは別個に考えるべきです。

 グローバリゼーションで人が簡単に移動できるようになったことと、インターネットで世界に向けて簡単に情報発信し、不満を抱える若者たちを煽動できるようになったことが、テロの背景にあると思います。

 欧州の中で各国がポピュリズムを脱し苦い薬を飲んで構造改革を進め、イスラムの中で強まる過激派やテロリズムを消化していくという両方の動きが出てこないと安定しません。これは相当に厄介です。

─―なぜテロはフランスで起きたのでしょうか?

細谷:ドイツでは民族(フォルク)が国家の基盤になっています。イギリスの場合は多文化主義が基礎となり、アメリカの場合は憲法で国家理念を規定しています。他方、フランスの場合は、あくまでも理念に基づいて、自らが共和国の一員であるということがフランス国民の前提条件となっています。結び付けるものはフランス語であり、フランスが誇る理念であるため、政教分離は絶対に譲れない。それは共和国が成立するための核心の原理です。だから、それを否定するイスラム過激派と衝突しやすいのです。

2世がむしろ「フランス」に反発

 フランスにいるムスリムの多くは、基本的には憲法の規定する政教分離を受け入れています。ですが、自らの意思で来た移民1世はわかっていても、2世たちの中には疑問を持つ人はいるかもしれない。しかも、インターネットの情報には、ジハードやテロを煽動するものがあるわけです。


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