核兵器軍備管理が進展するまで20年はかかった。サイバースペースの管理の問題はちょうど初期の時点にさしかかっている、と述べています。
出典:Joseph S. Nye,‘International Norms in Cyberspace’(Project Syndicate, May 11, 2015)
http://www.project-syndicate.org/commentary/international-norms-cyberspace-by-joseph-s--nye-2015-05
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この論説でナイは、サイバー・テロをめぐるいくつかの概念の整理・定義を試みるとともに、今後の交渉の進め方についていくつかの提言を行っています。よく考え抜かれた優れた論考であり、傾聴すべきものと思います。特に、政府による検閲を正当化する、中国が言う「インターネット主権」のような考えを排しつつ、サイバースペースから来る危険に対応するためには、「如何なる国においても非合法と見なされるような行為」に的を絞って国際条約で規制することから始めてはどうかとの提言は、現実的で適切と言えるでしょう。
現在は、世界的・歴史的なイノベーション、技術パラダイム変化の時代であり、これは大きな経済成長要因となり得ます。他方ドローン(今のところ原始的な技術ですが)、IOT(Internet of Things。モノというモノ、あるいはヒトにセンサーを取り付け、データを刻々中央で収集、分析。あるいは中央から指令をモノやヒトに発信して操作する)、通信、人工知能、遺伝子技術等は、悪用された場合、独裁・搾取・差別の手段となります。
これら新技術の多くについては、米国からの発信が目立ちます。そして、これら新技術がもたらす道義上の問題点、規制についても、米国からの発信が目立ちます。しかし、これら新技術は、これから新たな巨大な需要を創出するもので、日本も能動的な対応をしなければ、国・社会全体がガラパゴス化する恐れがあります。
ナイが論説で指摘している、これら新技術への国際的規制を定める動きにおいても、日本は発言力を強化する必要があります。他国では、この種の交渉には一人の個人が数十年も携わって強力な発言力を築く例が多いのですが、ローテーションを旨とする日本の組織原則ではこのやり方は難しいでしょう。問題毎に産官学の小規模、インフォーマルな集まりを形成して認識をすり合せるとともに、日本代表を務める者は少なくとも5年はポストに止まることとする、といったような手立てが必要になるのではないでしょうか。
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