約300本の巨大な石柱が並び、特にベル神殿から長さ1.3キロに渡って続く列柱道路は見応えがある。ローマ劇場などもほぼ当時を思わせる姿で残っている。シリアの女性は中東の中でもその美しさは群を抜いているが、東西の文明が交差したシルクロードの中継地とあって、パルミラで出会った人たちには、吸い込まれるような碧眼をした少女らもいた。
結束して国際的な圧力を
ISはこれまでもイラクのハトラ遺跡などを破壊しているが、こうした行為を行ったのは彼らだけではない。アフガニスタンのイスラム原理主義組織タリバンも世界遺産であるバーミヤンの石仏を爆破、西アフリカ・マリでも著名なイスラム聖職者の墓が過激派に破壊されるなど同様の事件が起きている。
彼らはなぜ、このような愚行を繰り返すのか。それはイスラムでは偶像崇拝が禁じられているからだ。予言者ムハンマドは630年、聖地メッカを制圧した際、多神教の神殿だったカーバ神殿内外の多数の偶像を破壊したと伝えられており、過激派はこれに倣っている。有識者はISが世界的に有名な遺跡を破壊することで、自分たちの力を誇示するのが狙い、と指摘している。
パルミラは元々、シリア政府軍の支配地だったが、5月にISが制圧し、政府の協力者として住民ら数百人を公開処刑、先月には遺跡の管理者だった高名な考古学者のハリド・アサド氏の首を切断し、その遺体を信号機の1つに吊した。ISはまた、こうした虐殺の一方で、遺跡の文化財を略奪して闇市場で売却、活動費の一部にしているとされる。
米主導の有志連合はISの拠点に対して空爆を続行し、最近ではトルコも空爆作戦に参加。米政府は先月、指導者アブバクル・バグダディに次ぐISナンバー・ツーの副司令官ファディル・ハヤリをイラクの空爆で殺害したと発表したが、組織が崩壊する兆しはなく、空爆だけでは壊滅することができない現実が一層、鮮明になっている。
ならば、どうするか。彼らは広報宣伝にネットを駆使しており、国際社会がネット上で結束して「パルミラを救え!」というキャンペーンを開始したらどうだろうか。ISは終末思想に傾倒した狂信集団であり、一顧だにしない可能性はあるが、武力で屈服させることができない以上、少しでも圧力になればいいと思う。やってみる価値はあるのではないか。
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