「ウーバー」
コンセプトは「シェアリング・エコノミー」
グラブタクシーに対して、挑戦状をつきつけているのがウーバーだ。ウーバーは、アメリカ発、そもそものコンセプトは「シェアライド」であり、グラブタクシーとは発想が全く異なるものだ。
たとえば、自分は朝の9時から夜の5時まで働いているとしよう。夜6時~夜9時、何もしないで過ごすのはもったいない。であれば、趣味のドライブを仕事にできたらいいではないか! そこで、ウーバーのプラットフォームを通して、ドライバーとして、自分の車でタクシードライバーとして走ることができる。
もっとも、フルタイムでウーバードライバーとして働くこともできる。グラブタクシーが、既存のタクシー会社の課題解決にフォーカスしているのに対し、ウーバーは、一人一人の時間や資産を有効活用しようという「シェアリング・エコノミー」の発想に基づいているのが特徴的だ。
ウーバーの使い勝手はほとんどグラブタクシーと一緒だ。自分の現在地と目的地を設定して呼び出せば、ものの数分で自分を迎えに来てくれる。
決定的な違いは、車がタクシー会社の車では無く、個人の車であることと、課金の仕組みが距離+時間で計算されている、という点だ。グラブタクシーとは逆説的になるが、個人の車のため、メーターはついていない。メーターの役目は全てアプリが担う。(もう少し最新のトレンドを的確に言うと、ウーバーのプラットフォームにもタクシー会社が提携し始めているし、グラブタクシーも個人ドライバーを受け入れているため、実際の差はほとんど無くなりつつある)。
タクシー会社ではない、どこの誰かもわからない人の車に乗るのは怖くないのか!? というユーザーの不安を払拭してくれているのが、乗客によるレビュー機能だ。ウーバーでは、乗客からの評価があまりにも低いとキックアウトされてしまうことから、ドライバーのサービス精神はかなり旺盛だ。個人の車で運用しているため、途上国のタクシー=汚い、というイメージを見事に払拭してくれている。
筆者もいろいろな国でウーバーを試したが、ドライバーが保有する車だろうか、総じてきれいである。ドライバーにとっても、乗客が利用した後、改善点などがコメントでフィードバックされるため、サービス向上に役立てることができる。
ウーバーは、単純な配車サービスだけではなく、出会いの要素もあるところが楽しい。マレーシアでウーバーを使った時のことである。
一台のBMWが自分の前に止まった。車の中に入ってドライバーをよくよく見ると、ブランドもののスーツと時計をみにつけているではないか。目的地へ向かう途中、お互いに自己紹介をしていたところ、なんと、彼はクアラルンプールで複数の企業を経営している経営者だったのだ。十二分に富を持て余す富裕層の彼が、なぜウーバーのドライバーなんてやっているのか、私には不思議でたまらなかった。正直お金をたくさん稼げるわけではないでしょ? と聞くと、
「そうだよ。正直、お金には全く困ってない。でも、企業経営は退屈なんだ。ひとたび安定してしまえば、毎日同じことの繰り返し。僕がウーバーでドライバーをやってるのは、乗客の人と会話を楽しみ、何かエキサイティングなものを探しているからなんだ」
と答えた。そういって、彼は私に新しい起業のアイディアを話し始めた。まったく、面白い出会いがあるものである。是非、東南アジアでお越しの際は、グラブタクシーとウーバー、両方試して頂きたい。
では、グラブタクシーとウーバー、どちらが優勢だろうか? 筆者の独自の観点から言えば、デザイン性や使い勝手はウーバーの方が良いが、すぐに配車できるのはグラブタクシーだ。とはいえ、この差は縮まりつつある。現在、ASEANではどこの国でも、両方のアプリでキャンペーンを展開している。最初の一回は無料で乗れてしまう可能性もあるため、東南アジアにお越しの際は、是非試して頂きたい。