2024年11月25日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年10月6日

 ムスリムは、歴史的に、文明の繁栄に少なからず貢献した。貢献は、イスラムが、互恵、自由、正義を大切にした時代に行われた。イスラムのけがされたイメージを回復するのは容易ではないが、ムスリムは、社会の平和と静かさの導き手になることができる、と述べています。

出 典:Fethullah Gulen ‘Muslims Must Combat the Extremist Cancer’(Wall Street Journal, August 27, 2015)
http://www.wsj.com/articles/muslims-must-combat-the-extremist-cancer-1440718377

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 イスラム過激派、特にISの暴力、残虐行為を、国際社会は厳しく非難しています。しかし、一番有効なのは、暴力や残虐行為はコーランの教えに反するという、イスラム教徒自身の非難です。ギュレンはそれを主張しており、もっともなことです。

 イスラム過激派は、イスラムの名のもとに行動しており、特にISは指導者バグダディが自らをカリフ(預言者ムハンマドの後継者)と名乗り、カリフを頂点とするイスラム共同体の建設を宣言しており、それが多くのイスラム教徒の若者を引き寄せています。したがって、バグダディの考えと行動が、コーランの教えに背いていることを、イスラム教徒自らが指摘し、糾弾することは最も有効なはずです。

 しかし一つの問題は、そのようなメッセージをいかに強力に発信するかということです。イスラムの世界には、カトリックのローマ法王に相当する権威は存在しません。したがって、誰がどのように上記のようなメッセージを発信するのが正当で、権威あるのかが明らかでなく、メッセージの有効性がそれだけ減殺されてしまいます。

 ギュレンは、テロは宗教的側面だけの問題ではなく、ひろく政治、経済、社会のどの側面も含めた対策を考えるべきであると言っていますが、イスラム世界の実情は必ずしもそのような条件が整ってはいません。たとえば、イスラムスンニ派の指導国を自ら任じているサウジは、およそ西欧的な民主主義とは縁遠く、女性の権利は男性の権利とは相当異なります。ギュレンの主張は、ギュレンの本国トルコには当てはまるかもしれませんが、多くのアラブ諸国には当てはまらないでしょう。

 イスラム教徒のISなどとの対決は、やはりまずはISなどの暴力、残虐行為がコーランの教えに反し、反イスラムであることを強調し、ISのイデオロギーに真っ向から挑戦することに重点を置くべきでしょう。もっとも、それがどの程度有効かはまた別の問題です。

  
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