とかく製作費や放映権が高騰し、権利関係も複雑で、重工長大、ともすれば鈍重なテレビ・映画業界において、「早い、安い、上手い」を実現するDLEはSNS時代の寵児と注目される。
椎木社長がこのビジネスモデルに行き着く発端となったのが、現在もDLEのクリエイティブを牽引するFROGMANこと小野亮氏(同社取締役)との出会いだった。「クリエイターとして夢破れ、島根でコツコツ制作していた『菅井君と家族石』というフラッシュアニメが素晴らしかった」(椎木社長)。05年夏に大阪で開催されたイベントに出向き、「共に世界征服しよう」と口説き落とした。小野氏の強みは個性的な創造性もさることながら、圧倒的な制作スピードにある。その年の冬に上京した小野氏はオフィスに300連泊して大量の作品を創った。代表作が「秘密結社 鷹の爪」だ。
06年10月、映画上映前のマナー啓発ムービーとしてTOHOシネマズに採用された短編アニメ「鷹の爪」は、その刺激の強さからすぐに世間で話題となった。「映画館の中だけ、という〝局地的熱狂〞を創ることが、コンテンツとして最も重要であることにこの時気づいた」(椎木社長)。テレビの放送枠を多額のコストをかけて獲得し、DVD販売で後から回収するようなそれまでのビジネスモデルをやめた。
無料通話アプリ「LINE」のスタンプに登場するやいなや、日・米・台湾など世界各国でダウンロード数1位を獲得したアニメキャラクター「パンパカパンツ」。アジアのコンビニエンスストアチェーンや携帯電話会社などからキャラクターに使いたいと引き合いが相次ぐ。このキャラクターの局地的熱狂は、静岡で創られた。
地元で圧倒的な視聴率を誇る静岡放送に対し、「県外収入を確保できる」とキャラクタービジネスを提案し、制作したパンパカパンツの著作権を静岡放送と共有。代わりに毎日18時57分から1分間のフラッシュアニメを流し続けることで、静岡なら誰でも知っているキャラクターに成長した。
DLEは、14年の東証マザーズ上場で18億円を調達。小さく産んで大きく育てることに長けるDLEだが、「大きなブランド力」(椎木社長)を持つTGCをさらに大きくすることで、非連続的に成長し、株主の期待に応えようとしているのだろう。
椎木社長は「地方やアジアなど世界で稼げるコンテンツにする」と意気込むが、他地域展開は、以前からF1メディアが模索してきた。DLEならではの付加価値はどこにあるのか。
ポイントは「映像コンテンツ業界で育まれた製作委員会方式をファッション業界に導入すること」(椎木社長)。F1メディアはTGCの他地域展開にあたってテレビ局など地元資本を〝スポンサー〞として捉えているが、「例えばタイでTGCを開催するなら、タイのテレビ局に製作委員会に入ってもらって、コストと収益をシェアした方が、TGCが〝我が事〞になり、事業スピードが上がる」(椎木社長)。「IPを自らグリップし、局地的熱狂を創ることに貢献できる主体をパートナーに」という発想はDLEらしい。
34歳で起業した椎木社長はソニー出身。SPEビジュアルワークス(現・ANIPEX)の海外ライセンス部門長として「るろうに剣心」などのアニメをハリウッドに売り込んだ。コンテンツを世界展開するために必須の法務知識と人脈を有する椎木社長と、クールジャパンの代表銘柄として経済産業省も後押しするTGCの掛け合わせが産み出す付加価値に要注目だ。
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