2022年10月7日(金)

Wedge REPORT

2015年10月9日

»著者プロフィール
閉じる

磯山友幸 (いそやま・ともゆき)

ジャーナリスト

千葉商科大学教授(4月から)。1987年日本経済新聞社に入社。フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長などを務め、11年に独立。著書に『2022年、働き方はこうなる』(PHPビジネス新書)など。

 その頃から経済産業省を中心にTPPへの参加が日本の大きな政治課題になった。背後に米国の圧力があったのは間違いない。つまりTPPはもともと経済連携は表看板で、本質は地政学的なヘゲモニー争いだったわけだ。

 それだけにTPPの大筋合意が持つ意味は大きい。単に関税を撤廃し外国産品を受け入れるという話ではないのだ。ゆくゆくはEUのような国境のない共同体へと進んでいくことになるのはまず間違いない。貿易の壁を撤廃するだけでなく、それぞれの国のルールを統合していくことになるだろう。これはすでに著作権の保護期間の統一といった交渉に明確に現れている。これが今後、経済ルールのすべてについて統一する方向に動き出すとみていいだろう。

「21世紀の世界のルールになる」という意味

 12カ国だけでなく、アジアの周辺国がこぞって参加し、大経済圏に育っていく。甘利大臣が「21世紀の世界のルールになる」という意味はそこにある。

 日本は間違いなく変化を迫られることになる。とくにこれまで関税という壁で守り、事実上の鎖国状態を維持することで保護されてきた産業は生き残りをかけて構造転換せざるを得なくなる。端的に言えば農業だ。コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、砂糖などを、政府は「重要5品目」とし、TPP交渉の枠外として守る姿勢を見せたが、現実には段階的に関税が引き下げられ、輸入枠が拡大されることになる。TPP域内各国との競争にさらされるのは間違いない。

 これまでの関税による保護を前提にした体制は、価格競争では絶対に外国産に勝てない、ということが不動の前提だった。だが、それを前提にしている限り、その産業は滅びていくことになる。発想を変えて、安全性や品質、ブランド力などで高付加価値品を生み出し、生き残っていくしかない。何の努力もしなければ、価格が安い外国産品に消費者が向いていく。つまり、経営努力が不可欠になるのだ。

 オレンジの自由化で日本のみかん農家は全滅すると言われたが、現実はどうなったか。様々な品種改良が行われ、日本人好みの柑橘類が次々に生まれて新しい市場を作った。海外市場にも輸出されている。

 安い外国産米が今以上に入ってくることになるが、それで日本のコメが全滅すると考えるのは早計だ。すでに米価の下落などによってコメ作りの競争は一段と厳しくなっているが、一方で食味の良さを求める品種改良が進み、新しいブランド米が生まれている。日本のコメは品質では世界一だという自信が、コメを日本の輸出産品に変えていく可能性は十分にある。

 安倍首相は10月7日の内閣改造後の記者会見で「TPPをピンチではなくチャンスに変える」と言い切った。価格だけではなく、品質で選ばれる輸出農産品をどんどん生み出していけば、日本の農業の未来が開けて来るというのだ。

日本と米国の国境が、今の県境と同じになっていく

 そのためにはこれまでの慣行に捕らわれない改革が不可欠になる。現在は国家戦略特区だけで認められている農業生産法人の要件緩和などを日本全体で推し進めることが不可欠だ。株式会社が本格的に農業に参入する道を開くことも必要になるだろう。米国の大農業会社やニュージーランドの大畜産会社と真正面から戦って勝たなければならないからだ。

 同じ野菜でも北海道産と九州産では、当然天候の違いによる収穫量の差があり、それがコストに跳ね返る。だからといって、コストが安く価格も低い北海道産に課税しろという話にはならない。TPP内の地域が一体化していけば、それと同じ話だ。日本と米国の国境が、今の県境と同じになっていく。これは現実にEUで起きていることだ。

 そうした流れの中で、経営努力を放棄し、ルールで守られる道を模索し続けたらどうなるか。その時こそEU内のギリシャと同じような悲惨な国になるだけだろう。

 これから本格化するそれぞれの分野でのTPP対応では、大きく発想を転換する必要があるだろう。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

新着記事

»もっと見る