2024年4月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年10月20日

 

 ターンブル現首相は、対照的に、明確なコミュニケーターであり、反君主制・共和制支持運動のかつての指導者で、自由主義者である。「首相の回転木馬」が続くだろうとの労働党の希望は、少なくとも短期的には失望に終わりそうである。ターンブルは、連立与党の大半が彼の自由主義を共有していないことを知っており、政策転換には自己抑制が必要と知っている。  

 豪州にとっての希望は、今回のことが、与野党双方が安易なスローガンと大衆迎合的競争は短期的には得をするかもしれないが、最終的には副作用があると認識する分水嶺となることである。殆どの有権者が望んでいるのは、首尾一貫した指導哲学、説得力のある政策を持ち、きちんとした統治プロセスへの純粋なコミットメントをする政治的指導者である。  

 豪州の大衆は、表面的な政策形成、大衆迎合的な個人中心の政治に惹かれてきたようだが、今や近年の政治的サーカスに辟易し、主要政党の責任者に成熟した人物が戻ってくることを望んでいるのは明白である。ターンブルと労働党のビル・ショーテンを得て、ついに長期的なリーダーを得たように思われる。その希望が実現されるかどうか見守る必要があるが、勇気づけられる兆候がある。世界中の他の多くの民主国家が、我々がうまくやり遂げることを望んでいよう、と指摘しています。

出典:Gareth Evans,‘Australia’s Pantomime Democracy’(Project Syndicate, September 16, 2015)

http://www.project-syndicate.org/commentary/australia-new-prime-minister-malcolm-turnbull-by-gareth-evans-2015-09

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 エヴァンスは豪州の外相を務め、現在は豪州国立大学学長をしています。この論説では、豪州では「首相の回転木馬」に国民は辟易しており、今度のターンブル登場で長期安定政権ができるのではないか、との希望を述べています。  

 エヴァンスは、これまでの回転木馬現象の原因として1)民主主義国に共通にみられる苛立ちとソーシャルメディアの影響、2)議員の任期が3年と短いことと、首相を与党議員の投票で簡単に止めさせられる党規則、そして3)指導者の性格的気まぐれの3つの要因を挙げていますが、1)は豪州特有の現象ではなく、2)は、労働党はすでに規則を改正したとのことであり、3)は必然的なことではありません。とすれば、エヴァンスの希望は根拠がないわけではありません。  

 豪州はアジア太平洋地域の要の国であり、政権が安定することは地域の発展、そして、安全保障の観点から重要です。ターンブルには外交経験が乏しいという懸念がありますが、中国の南シナ海での埋め立てを「非生産的」と批判し、ペイン新国防相はさらに強い調子で、中国の一方的な現状変更に反対すると言っています。エヴァンスの希望が実現することを望みたいものです。

  
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