2024年11月22日(金)

イノベーションの風を読む

2015年10月19日

モバイル・ガラパゴスが
日本のIoTを阻害する

 ソラコムが基本料金を撤廃するには、日本の携帯キャリアに特有の問題を解決する必要がある。

 日本でMVNOが販売するSIMは、携帯キャリアから貸与されている。これは、携帯電話番号や、端末が使用されている場所、そして顧客の契約状況といった顧客情報を管理する、HLR(Home Location Register)と呼ばれるデータベースを携帯キャリアが保有しているからだ。

 そのためMVNOは、携帯キャリアから帯域をまとめて購入しているにもかかわらず、SIM単位での基本使用料や、情報を取得するための付加価値サービスの月額料金を支払わなければならない。それとは別に、NTTドコモの場合、新規開通の事務手数料が2000円かかるが、ソラコムがIoT事業者に課す価格は580円と逆鞘になっている。その差分とNTTドコモに支払う月額を、1日10円の基本料金でまかなおうとしているのだろう。

 MVNOがHLRを持つことができれば、独自のSIMを発行して自社で管理し、初期費用以外を完全な従量制にしたIoT端末向けのデータ通信サービスを提供することが可能になる。すでに欧米では、BのパターンのMVNOやMVNEがHLRを保有することが一般的になっているが、日本では携帯キャリアがそれを拒んでいる。携帯キャリアが恐れているのは、MVNOにHLRを開放することによって、自社のネットワークがダムパイプ(土管)化してしまうことだ。

 HLRを持ったMVNOは、一枚のSIMに複数国の携帯キャリアを登録して、それぞれの国ごとの、ローカルの通信料金でサービスを提供することが可能になる。コネクテッド・ペダルは、このようなMVNOのSIMを使用していると思われる。

 前回の記事で紹介したグーグルのProject FiというMVNO事業は、スプリントとT-モバイル(USA)の2つの携帯キャリアの回線と、フリーのWi-Fiサービスを組み合わせて、スマートフォン向けの通話とデータ通信サービスを提供する。これもグーグルがHLRを持っていることになる。アップルもかなり以前から、iPhoneにSIMを埋め込むことを検討していると噂されている。

 すでに世界では、端末と通信とクラウドの水平統合の動きが始まっており、モノのインターネットが、実際の製品やサービスとして市場に提供されようとしている。日本の携帯キャリアがHLRの開放を拒み続けると、グローバルなスマホエコノミーで存在感を失ってしまった日本の企業が、ここでも大きく遅れをとってしまうことになる。

  
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