Wedge REPORT

2015年12月21日

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1カ月以上たった後でも水害の爪あとが残る常総市内(NORIYUKI INOUE)

国が進める避難計画への疑問

 ハード整備を着々と進めつつも、水害が起こるまでに間に合うかは分からない。そこで国交省が推進しているのが「タイムライン(事前防災行動計画)」の策定だ。

 タイムライン防災とは、台風の上陸から3日前まで遡り、策定する行政自身や公共交通機関などの行動を事前に計画して整理しておくことをいう。

 国交省荒川下流河川事務所は全国に先駆けて、東京都足立区や北区などの関係自治体、東京メトロやJR東日本等の関係機関とともにタイムライン策定を進めた。

 15年5月に試行案を公表し、「9月の豪雨でも72時間前の体制整備に活用した」(荒川下流河川事務所の小池栄史副所長)そうだが、その先には「鉄道の運行停止」や「避難バス専用レーンの設置」など、かなり経済的、社会的影響の大きいメニューが並んでいる。

 前出の水害対策協議会のアドバイザーをつとめる群馬大学大学院の片田敏孝教授は避難のシミュレーションを示し「江東5区で犠牲者をゼロにするには、事前に住民の1割が自主避難する、半分以上が鉄道を利用して避難する、3階建て以上の人は避難しないなどの無理難題をいくつも達成しなければならないが、市町村にそんな強制力はない」と、行政主導のタイムライン防災で住民を救うことの難しさを指摘する。

 では打つ手はないのだろうか。

 「私がこの仕事に就いた三十数年前には、降雨量を把握するにも、広い流域内に数の限られた地点の雨量計しかなかった。当時はダム管理をしていたが、1時間毎に更新される雨量計の数字しか見られなかったので、今後の雨の降り方は想像するしかなかった。今はレーダー雨量計の数分毎に更新されるデータが公開配信されており、面的に移り変わる降雨情報が得られるので、これから雨が強くなるのか、雨が弱まるのかを、誰もが手軽に確認できる」(国交省庄内川河川事務所の瀬古眞一副所長)。

 幸いにも、現代には災害が起きるかどうか判断するための情報が溢れている。気象庁や国交省のサイトでは、リアルタイムで自らに関係する河川上流域の降雨や水位の状況を見ることができ、30年前の河川管理のプロたちを超える情報を手にすることができる。

東海豪雨で水没した名古屋市内(THE YOMIURI SHIMBUN / AFLO)

 しかし、「1947年のカスリーン台風以来、大規模水害が起こっていないことで、行政依存ボケしてしまった」(前出の山田正教授)。情報があっても取りに行くマインドがない。

 逆に言えば、マインドさえあれば自分や家族の命は救えるはず。情報や指示が与えられるのを待つのではなく、自分が住んでいる地域の川は何川で、上流域はどこになるのかを知ることから始めよう。

  
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【お詫び】月刊Wedge1月号48頁における東海豪雨の発生年数と庄内川下流域の記述について誤りがありました。また、49頁、庄内川河川事務所・瀬古眞一副所長のコメントで「昔は広い流域に限られた雨量計しかなく、その数値をもとに勘でダムを操作していた。今は正確な雨量を手軽に確認できる」と記述しましたが、誤解を生む表現でしたので、本Web記事の記述にて訂正をさせて頂きます。ご迷惑をおかけした関係各位に深くお詫び申し上げます。

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