2024年11月21日(木)

Wedge REPORT

2015年12月28日

 具体的な支援策としては、帰還者に対する生業再建支援基金(営農再開、商工業再開、求職活動等に要する費用など)を用意し、その利用者に対しては一定額、使途を限定せず一定期間支払う。さらにそれ以上に資金が必要となる場合には、何にどの程度を使うことが自らの生業再建設計に必要かを(相談窓口も準備しつつ)自己申告してもらい、それが地域再建に資すると認められる場合にはその額を認めるような制度はどうだろうか。この資金は、その使途に応じて100%補助的な交付金から無利子融資的な制度まで、資金提供方法にもバラエティをもたせておくことが肝要である。

 さらに、個々人で用意する資金があれば、それに対してほぼ自動的にマッチングファンドを供給するような制度も一案である。これらの制度の目的は、相当額の損害賠償金を手にした被害者の中に、自立心を失いつつあるケースや、資金の使途として褒められないケースが散見されるという批判に対応するという点にもある。

還ることを決めた人、還らないことを決めた人--(楢葉町の木戸川で再開された本格的なサケ漁、2015年10月) JIJI

 そもそも帰還という選択をしないケースも多い。事故からすでに5年が経ち、避難先での生活が定着している者も増えており、その方が多数に上ると考える方が自然だろう。県が実施する自主避難者への住宅支援は17年3月で終了することになっている。帰還者に対する損害賠償の枠組みを終了するのであれば、非帰還者や自主的避難者に対しても同様に一区切りすることが公平である。

 帰ることを前提にした支援しか認めないということでは、約2万5000人にのぼり母子家庭も多いと言われる自主避難者への対応がいつまでも終わらないのではないだろうか。帰らないことを決めた人に対しては、その選択を受け止め、自主避難先で新たな生活を立ち上げるための相談体制を整備し、精神的なケアも含めて、自立のためのサポートを行う体制を国として準備する必要がある。その場合に必要な自治体や相談組織の人件費や事業費は、国が支援すべきである。

 仮に生業再建資金を必要とする場合、帰還者とのバランスを考え、上記の帰還者への支援策のうち月々のベースとなる一定額の生業再建資金部分を、一定期間(例えば3年)に限って支払うことが可能となるような制度も検討の余地がある。

広域的な復興政策

 残された大きな問題は帰還困難区域のあり方だ。現在は、住民は全て帰還していただくという前提に立っている。事故直後は、政府も地元自治体も、最後の一人まで帰還を目指すと言わざるを得ないのが政治的現実だった。

 しかしながら、事故後約5年が経過し、帰還困難区域の帰還を希望する住民は1~2割に減っている。また、帰還困難区域の中でも地形や線量の関係から効果的に除染を行う見通しが立っていないところもあり、この地域全域の面的除染は現実的に困難となっている。こうした見たくない現実もきちんと見据え、実行可能な解決策を検討することが必要な段階に来ている。


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