こんなことを20年続けていたら、中央経済社という出版社が、本を出してくれると言ってくれました。それまで経理・財務の本を何冊かその出版社で書いてましたから、気を遣ってくれたのかもしれません。でも、意外に売れてすぐ2刷になりました。
新聞などの取材でゴロ合わせが趣味と答えてましたから、「信越化学の経理部長の趣味は日本史年代ゴロ合わせらしい」と、ライオン社という出版社も、本を出せないかと来てくれました。そのころ中央経済社の話が進んでいたのでお断りしたら、それでは「英単語のゴロ合わせ本を出そう」となりました。
メルビルの白鯨で英語教師になる夢を断念した私にとっては、英語も鬼門です。しかし、大好きなゴロ合わせから入ることで、英語も楽しく学ぶ気持ちになれました。61才の時に相次いで上梓した『楽しく覚えられるゴロ合わせ英単語』(ライオン社)、『楽しく覚える日本史年代「ゴロ合わせ」』(中央経済社)は私にとってとても思い深い本です。
また、渡辺君の芸術力に感化された影響もあったのでしょう、妻に「あなた、ワーカーホリックだから一緒に始めない?」と誘われて、53才で社交ダンスも始めました。7年かかって60才で社交ダンス教師の資格を取り、66才になって『お父さんの社交ダンス』(モダン出版)、70才で『私がほしかったダンス用語集』(中経出版)という本を書きました。
趣味といえば、亀井君の趣味の絵画は、個展を開くまでになっていて、その油絵はとても優しい色であるそうです。これは私一人の勝手な想像ですが、亀井君も渡辺君の芸術力の影響を受けたのかもしれません。
日本史も英語もダンスも、まったく得意ではない私ですから、実力が下の下の人間にしか書けない本を書こうと思いました。どの本も、「“下手物(げてもの)”趣味では恥ずかしい」というプライドがあったら書けない、目線の低い本になっています。
「生涯一(いち)経理・財務マン」として、狭い一つのこと(経理・財務)を掘り下げ続けた私は、その掘り下げがあったからこそ、ときどき寄り道もすることができました。若い時代の体験、気持ちがもとになって、何十年も経ってから本を書かせてもらえたことは、私の人生をほんとうに豊かにしてくれます。
「若いときに感じた悔しい気持ち、あこがれの気持ち、それはすぐに形にならないけれども、ずっと心にしまっていれば、突然思いもよらない形で花開くことがある。でもそれは、あくまで、一つの狭い専門分野をしっかり掘り下げた上に、小さく開くものなんだ」そんなことを感じています。
親友とは言えない友だち、友人とは言えない友だち、恩師とは言えない先生。このような人たちから、間接・直接に自分が受けた影響を、これからも大切にしたいと思います。
今朝、出掛けに42年前のことをふっと思いだし、妻に聞きました。「娘時代におふくろさん(常〔つね〕さん)に言われて、柔術か何かを習っていたと言ってたよね?」。すると「護身術よ」という答えが返ってきました。あれ? 亀井君が6段である合気道も護身術だったな、と思いました。妻は無段で亀井君は6段ですから、これは夫婦ともどもペコペコしなくてはなりません。
■今回のコラムに関係する金児昭氏の著作一覧
狭 い 専 門 分 野 |
小尾毅先生 「私も書くからあなたも |
1984年 (47才) |
『法人税実務マニュアル』 (日本実業出版社) |
||||||||||||
東畑精一先生 「狭く深い実務が大切」 |
1989年 (52才) |
『ビジネス・ゼミナール 会社「経理・財務」入門』 (日本経済新聞出版社) ※1989年当時は 『会社経理入門』 |
|||||||||||||
げ て も の 趣 味 |
大学受験で 日本史60点満点で7点 |
1998年 (61才) |
『楽しく覚える日本史年代 「ゴロ合わせ」』(中央経済社) |
||||||||||||
英語の教科書 「白鯨」(メルビル)で挫折 |
1997年 (60才) |
『楽しく覚えられるゴロ合わせ 英単語』(ライオン社) |
|||||||||||||
英語の教科書 「白鯨」(メルビル)で挫折 |
1998年 (62才) |
『The corporate accounting in Japan』(中央経済社) |
|||||||||||||
英語の教科書 「白鯨」(メルビル)で挫折 |
2002年 (66才) |
『日英対訳 英語で読む 決算書が面白いほどわかる本』 (中経出版) |
|||||||||||||
渡辺蔚君の 芸術力の影響 |
2003年 (66才) |
『お父さんの社交ダンス』 (モダン出版) |
|||||||||||||
渡辺蔚君の 芸術力の影響 |
2007年 (70才) |
『私がほしかったダンス用語集』 (中経出版) |
■読者のみなさまへ
筆者自身が述べておりますように、このコラムは、読者の方々からいただいた情報のおかげで、当初は想定していなかった広がりを見せております。どのようなことでも結構ですので、ご感想などございましたら、こちらからお送りいただければ幸甚です。 (編集部)
■関連記事
・高校同窓生からみた亀井静香氏(その1) 金児昭のペコペコ哲学(15) 上には上がある
・高校同窓生からみた亀井静香氏(その2) 金児昭のペコペコ哲学(16) 人の縁
・高校同窓生からみた亀井静香氏(その3) 金児昭のペコペコ哲学(17) 絆
■「WEDGE Infinity」のメルマガを受け取る(=isMedia会員登録)
週に一度、「最新記事」や「編集部のおすすめ記事」等、旬な情報をお届けいたします。