2016年米国大統領選挙において、序盤のヤマ場となったスーパーチューズデー(3月1日)で、不動産王ドナルド・トランプ候補とヒラリー・クリントン候補が共に指名獲得に向けて、確実に獲得代議員数を増やしました。スーパーチューズデー当日、筆者は南部テキサス州ダラスにあるクリントン陣営の選対に入り、戸別訪問及び電話による支持要請を行っていました。テキサス州は、スーパーチューズデーに予備選挙並びに党員集会が開催された州の中で、最も代議員数が多い州です。
本稿では、現地で観察したクリントン陣営の選挙戦略と、トランプ候補が直面している課題について報告します。
仕組まれた舞台設定
3月1日、トランプ候補は記者会見を、クリントン候補は勝利集会をスーパーチューズデーに選挙が行われなかったフロリダ州を選択しました。その意図はどこにあるのでしょうか。
トランプ候補は、明らかに3月15日にフロリダ州で行われる予備選挙に焦点を合わせています。フロリダ州は、エスタブリッシュメント(支配層)の期待を背負うマルコ・ルビオ上院議員の地元であり、1票でも多く得た候補がすべての代議員を獲得する「勝者総取り」を取り入れています。トランプ候補にはフロリダ州を制し、ルビオ上院議員をノックアウトして撤退に追い込もうとする意図が窺えます。
スーパーチューズデーで圧勝したトランプ候補は、それ以来本選を意識した発言をしています。同候補は、「私は統一者である」と繰り返し主張して、共和党内の統一を訴えています。
一方、クリントン候補も本選で激戦州となるフロリダ州をスーパーチューズデーの勝利集会の場所に選択しました。そこで、クリントン候補は、「アメリカはすでに偉大な国であり、これからもそうあり続ける」と主張し、トランプ候補のスローガンである「アメリカを再び偉大な国にする」を否定したのです。「我々の使命は、すべての国民のためのアメリカを作ることである」とも述べ、米国社会における多様性の重要性を指摘し、イスラム教徒及びヒスパニック系を排除しようとするトランプ候補の政策を非難しています。