一方でクリントン候補は、実践的で現実的な変革をもたらすというメッセージを発信します。さらに、下院議員と上院議員を合わせて25年間の議員経験のあるサンダース上院議員こそが、エスタブリッシュメント(支配層)であると有権者に伝え、クリントン候補に対する否定的なイメージを弱めているのです。
クリントン陣営の選挙戦略は、各州の選挙区により多少の強弱はあるものの、標的はアフリカ系、ヒスパニック系及び高齢者であることは明らかです。フロリダ州マイアミ・ビーチのクリントン選対でも、「勝っても残るクリントンとトランプの不安」(16年3月13日配信)で紹介した例のアフリカ系、ヒスパニック系及び高齢者とクリントン候補が一緒に写っているパンフレットを配布していました。裏返せば、白人票と若者票に期待できないからです。
羊飼いのリーダーシップスタイル
ミニ・スーパーチューズデーで、5州のうち4州で勝利を収めたクリントン候補は、勝利演説の場所にスーパーチューズデーと同じフロリダ州を選択しました。フロリダ州は、本選で激戦州の中でも最重点州となります。
クリントン候補は、勝利演説の中でサンダース上院議員に撤退を迫りませんでした。選挙資金を予備選挙から本選に向け、地上戦の準備をするために、サンダース上院議員に即座に撤退をしてもらいたいのがクリントン陣営の本音であることは間違いありません。同時に、クリントン候補は、今、サンダース陣営の若者の熱意とエネルギーを必要としているのも事実です。同上院議員の撤退を要求することによって、同陣営の若者の反感を買いたくないのです。
サンダース陣営の若者にとって新鮮さ、魅力及び信用に欠けるクリントン候補は、彼らを説得できません。そこで、同候補は、「羊飼いのリーダーシップスタイル」をとろうとしています。羊飼いは、大きな群れを同じ方向へ向かわせるために、番犬を使いながら後方から支援します。現在の与党民主党には、ミレニアム世代に支えられたサンダース陣営と高齢者の支持者が多いクリントン陣営に分裂しています。
そこで党内のジェネレーションギャップを埋め、ミレニアム世代と高齢者の支持者の統一を図るには、羊買いの番犬の役割を果たす人物がクリントン候補には必要なのです。その人物は言うまでもなく、ライバルのサンダース上院議員です。同上院議員の支持を取りつけ、彼にサンダース陣営の若者を説得してもらい、最終的に彼らをクリントン陣営に参加させるのが、クリントン候補の羊飼いのリーダーシップの狙いなのです。