今回のテーマは、「クリントン候補のトランプ攻略法」です。3月15日に5州で予備選挙が実施された「ミニ・スーパーチューズデー」において獲得代議員数を大きく伸ばしたヒラリー・クリントン候補は、本選に向けて不動産王ドナルド・トランプ候補をかなり意識した演説を行っています。ただそのトランプ候補ですが、大票田のフロリダ州とオハイオ州を1勝1敗で終えたため、指名獲得に必要な1237人の代議員数を獲得できるのか微妙な状況になってきました。
本稿では、まずミニ・スーパーチューズデーにおけるフロリダ州マイアミ・ビーチクリントン選対での活動を通じて明らかになったクリントン陣営の選挙戦略について述べます。次に、フロリダ州で行われたクリントン候補の勝利演説をリーダーシップの視点から分析してみます。そのうえで、仮にクリントン候補とトランプ候補の対決になった場合、クリントン陣営はどのようなトランプ攻略法をとるのかについて考えます。
フロリダ州クリントン選対
フロリダ州マイアミ・ビーチにあるクリントン選対で経験した選挙運動を整理してみると、クリントン陣営の選挙戦略がみえてきます。
第1に、電話による支持要請において標的となっている大抵の有権者はヒスパニック系でした。有権者名簿には、ロドリゲス、サンティアゴ、ゴンザレスなどヒスパニック系とみられる名前が多くリストされており、これらの有権者を説得するために同系のクリントン支持者が入っていたのです。
第2に、電話による支持要請に加えて、クリントン陣営はマイアミのダウンタウンで3月に開催されるカリェオチョ(8番街)と呼ばれるキューバンアメリカン地区のフェスティバルで、選挙運動を行ったのです。8番街を歩くヒスパニック系の有権者に声をかけてクリントン支持者を見つけ、名前、携帯番号、メールアドレス、住所を記入してもらうのです。筆者は、46名のクリントン支持者から名前等の情報を得ることができました。取得したデータは予備選挙のみならず、激戦州フロリダ州における本選で活用が可能なのです。
第3に、テキサス州及びミシガン州クリントン選対と同様、フロリダ州においてもサービス従業員国際労働組合(SEIU)など組合員が応援に入り、電話による支持要請を行っていたのです。これらの組合員は、フロリダ州のみならずワシントンDCや他州から応援に駆けつけていました。
第4に、有権者名簿にリストされた有権者は、圧倒的に高齢者が多いのです。たとえば、筆者が担当した有権者名簿には1頁に8人の有権者が掲載されていましたが、ある頁に載っていた有権者の年齢の内訳は、88歳、84歳、81歳、79歳、70歳、56歳が各1名で、61歳が2名です。他州と同様、クリントン陣営は高齢者の支持者獲得に時間とエネルギーを注いでいます。
第5に、クリントン陣営のサンダース攻略法についてです。クリントン陣営では、有権者に対してバーニー・サンダース上院議員(無所属・バーモント州)が掲げる「政治的革命」を理想的で非現実的であると批判しています。同上院議員の政策の目玉である公立大学の授業料無償化は、実現がかなり困難ではないかと有権者に疑問を投げかけるのです。