入閣したアウンサンスーチーの意図とは
大統領選出と共に関心を集めたのが組閣作業である。そこではアウンサンスーチーが入閣するかどうかが一番の関心の的となった。ふたをあけてみると、彼女は4つの閣僚を兼任することが判明した。
当初、彼女は入閣しないという推測が広がり、筆者もその見解に与(くみ)していた。なぜなら、現憲法では正副大統領や閣僚に就任して行政府に入った議員は、議席を自動的に失うだけでなく、所属する政党の活動(党務)に関わってはいけない決まりになっているからである。
もしNLD党首としての活動が禁じられれば、アウンサンスーチーは自身と一心同体の党の運営から距離を置かざるを得ず、党首代行を立てるにしても、党内が混乱する可能性がある。また何よりも選挙運動に関われなくなるため、彼女の国民的人気に頼るNLD候補者にとって不利な状況になる恐れがある。このようなリスキーなトレードオフ(=価値交換)を彼女が敢えて選択するとは考えにくかった。アウンサンスーチーはしかし、最終的に入閣の道を選んだ。それはNLDそのものよりも、自身の国政への責任をより重視した判断によるものとみなすことができる。
一方、彼女の入閣と4閣僚兼任は、昨年11月の総選挙直前から公言していた「(私は)大統領より上に立つ」という考え方の発露として解釈することもできる。この考えは、たとえ憲法の制約で自身が大統領に就任できなくても、「代行」を立てて自分がしっかりその人物をコントロールするという姿勢の表明である。そこには2つの意味がある。
ひとつはNLDを支持する有権者の一部が、彼女が大統領になれないのであればNLDに投票する意味がないと消極的に考える傾向があったことに対し、安心感を与えるという意味である。
もうひとつは、「制度外の制度」の存在を隠すことを彼女が拒否し、それをあらかじめ民主的に「公表」するという意味である。時代を問わず、世界には特定の力を持った政治家や集団が制度上の首相や大統領を陰でコントロールするという事例がいくつもあり、今でも見かける。そのような場合、コントロールする側もされる側も、その事実を公には認めないのが普通である。
アウンサンスーチーの場合、そうした「制度外の制度」が存在する状態を「公然の秘密」扱いすることは民主的ではないと考え、「大統領ではないが、国民の意思を反映させるため、自分が大統領をコントロールする」と敢えて国民に明言し、堂々と外から大統領を「操縦」することを約束したのだといえる。そのことの具体的意味は、次に述べる彼女が兼務する4つの大臣ポストの選び方に見てとることができる。